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ラダック・レーで発生した騒乱とその後について

2025年9月24日、ラダックのレーで、思いもよらない大きな事件が起きました。ラダック人の若者を中心とする数千人の人々が突如暴徒化し、治安部隊と衝突。4人が死亡し、治安部隊を含む100人前後が負傷するという、痛ましい事態になってしまいました。

事の発端は、9月にレー市内で行われていた、ハンガーストライキでした。教育者・エンジニアでもある活動家のソナム・ワンチュクさんを中心にしたこのハンストは、今は連邦直轄領であるラダックの州への昇格や、ラダック人による議会の設置、少数民族の権利を保護する憲法第6附則(Sixth Schedule)のラダックへの適用、ラダックの自然環境の保護などを訴える目的で実施されていました。ソナムさんはこれまで、単独あるいは賛同者とともに、何度かこうしたハンストを実施していて、この9月のハンストも、話題と注目を集めながらも平和裡に行われていたそうです。

ところが、9月23日になって、ハンストに参加していたラダック人の高齢者2人の体調が悪化し、病院に搬送されてしまいます。この搬送を機に、ラダック人の若者たちの間で急に、もう待てない、集団で実力行使をするべきだ、という動きが発生。翌24日、数千人の群衆がレーの街にある政府与党BJPのオフィスに押しかけ、治安部隊に投石をしたり、オフィスの建物や警護車両に放火したり……という事態にエスカレートしてしまったのです。バングラデシュやネパールで、若者たちの蜂起によって政府が転覆したという事実も、就職難にあえぐラダックの若者たちの心理に影響していたのかもしれません。

治安部隊はゴム弾や催涙ガスなどで群衆に対抗したようですが、殺傷能力のある武器を使用したのかどうか、4人がどのような状況下で亡くなったのか、はっきりしたことはわかっていないようです。いずれにしても、レーの街では、かつて誰も経験したことがないほどの惨事となってしまいました。

この騒乱を受けて、レーとカルギルでは、5人以上の集会の禁止令が発令され、街の商店も営業停止。交通手段や通信回線にも一時、大幅な制限が課されました。さらに9月26日には、暴徒を扇動したという容疑で、ハンストを主宰していたソナム・ワンチュクさんが逮捕されるという事態になってしまいました。ソナムさんの運営するSECMOLやHIALなどの学校が、海外から資金提供を受ける際に必要な政府からのライセンスも、剥奪されました(政府のやり方もかなり強引ですね……)。

その後、9月28日と29日に亡くなった4人の葬儀が終わってからは、集会禁止令や各種の制限も段階的に緩和され、現在、日中は商店なども営業を再開しているそうです。とはいえ、多数の死傷者が出たことやソナムさんの逮捕に対し、ラダック人側の反発も(必ずしも一枚岩ではないようですが)高まっていて、いったん沈静化しても、今後、事態がいつまた、どのように推移するかは、はっきり見通せない状況です。以前から10月6日に予定されていたインド政府とラダック側との話し合いも中止となり、両者の交渉は膠着状態に陥っています。

この冬、そして来年の春から夏にかけての旅行シーズンに、ラダックがどのような状況になっているのか、今の時点では何とも言えませんが、インド政府とラダック側との話し合いが再開されて、ラダックが置かれている状況が少しずつでも改善されることを願っています。これからラダックへの旅行を計画されている方は、現地の最新情報をこまめにチェックすることをおすすめします。

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