2024年夏のラダック・ザンスカール・ルプシュツアー、参加者募集中!

ザンスカール最奥の僧院、プクタル・ゴンパの夏と冬

ザンスカールでもっとも有名で、もっとも行きづらい場所にある僧院、プクタル・ゴンパ。パドゥムからルンナク川沿いの未舗装路を南東に約50km遡り、プルネあるいはチャーという村の付近から、ツァラプ川沿いのトレイルを歩いていかなければ、この僧院には辿り着けません。

ザンスカールを目指す多くの旅人たちにとって憧れの地であるこの僧院に、僕は取材やガイドの仕事などで、これまでに何度か訪れた経験があります。夏だけでなく、訪れるのに少なからずリスクを伴う、冬にも。このザンスカール最奥の僧院はいったいどんな場所なのか、どんな人々が日々暮らしているのか、写真とともにあらためてふりかえってみようと思います。

拙著ガイドブック『ラダック ザンスカール スピティ[増補改訂版]』の表紙に掲載した写真のアザーカット。プクタル・ゴンパの建つ断崖には、僧院を下に眺めながら崖っぷちを辿り歩くことのできる、細いトレイルがあります。誰が歩いても絶対安全とは言い切れない、ちょっと危なっかしいトレイルですが……。こうして眺めると、この僧院がどれほどとんでもない立地に建っているのかがよくわかります。

プクタル・ゴンパの主要な僧坊は、断崖に自然に穿たれた巨大な洞窟の付近に集まっています。ツァラプ川を挟んで対岸には、ユガルと呼ばれる小さな村とその畑地を見渡すことができます。

壁や天井に煤のこびりついた厨房で、ドンモと呼ばれる器具を使って材料を撹拌して、バター茶を作っている僧侶。

毎朝、8時頃から始まる勤行の合間に、朝ごはんとして配られたツァンパ(麦こがし)とバター茶を混ぜて練り、団子状にして食べようとしている少年僧たち。

この地域の僧侶特有の、オレンジ色の尖った僧帽をかぶっている少年僧たち。僧帽の内側には、前の日に僧院の麓の売店で買った駄菓子が隠されていたりします(笑)。

冬のさなかにプクタル・ゴンパを訪れた時の写真。僧院の建つ断崖は日当たりのよい角度に面しているので、冬の間もあまり雪が積もりません。対岸のユガルは深い雪に覆われています。冬にここまで来るには、ラダックから凍結したザンスカール川に現れる幻の道チャダルを歩き、さらにルンナク川沿いの雪崩が頻発する豪雪地帯を徒歩で踏破しなければなりません。

朝、昔ながらの法螺貝を吹いて、時を告げる若い僧侶。夏も冬も、プクタル・ゴンパの僧侶たちの修行の日々は、淡々と続いていました。

プクタル・ゴンパの朝の勤行の風景。洞窟の入口付近に建つ僧坊の屋根の上に、僧侶たちが勤行や法要で集う、日当たりのいい広場があります。

朝の勤行をほぼ終え、ほっとした表情でバター茶をすすっている少年僧たち。時にはマイナス20度を下回ることもある冬のザンスカールで、毎朝こうして屋外でお勤めをするのは、さぞかし大変だろうなあと思います。

僧侶たちが2人1組になって取り組んでいる、教義問答の修行。立っている方がパァン!と手を打ち鳴らしながら問いを発すると、座っている側はそれに答える、というやりとりがくりかえされます。僧侶たちはこうした問答を何度も反復することで、仏教を学ぶ際に必要な論理学の基礎を身につけるのだそうです。

プクタル・ゴンパでは、チベット暦の12月28、29日(太陽暦ではだいたい2月頃)に、プクタル・グストルという祭礼が催されます。他の僧院のように仮面舞踊(チャム)を伴うものではなく、護法堂での法要と、地元の村人たちと彼らの家畜を交えたソルチェという素朴な儀式、締めくくりのトルマソルという儀式で構成されています。外部の人間にはほとんど知られていないこの祭礼を、僕は幸運にも目にする機会がありました。

プクタル・グストル初日の夕方、ソルチェの儀式のために盛装してプクタル・ゴンパに集まってきた、周辺の村人たち。僧侶たちがその後に続きます。

ソルチェの儀式が始まりました。村から連れてこられたヤク、羊、ヤギ、そして僧院で飼われている黒犬に、赤褐色の染料がなすりつけられます。

赤褐色の染料をなすりつけられ、僧侶による儀式を終えた動物たちは、プクタル・ゴンパと周辺の村々の守り神のような存在になるそうで、使役には使われず、村でずっと大切に飼われるのだそうです。

プクタル・グストル二日目の夕方、赤い三角錐の形をしたトルマ(お供え物)が、僧院から運び出されていきます。

黄帽の僧侶たちによる、セルケムと呼ばれる儀式。金属製の盃に、ツァンパで作られた赤い玉と、水差しから赤い液体が注がれ、詠唱と妙鉢の音に合わせて、計4回、宙に投じられます。

締めくくりのトルマソルの儀式。僧院の麓に積まれていた薪の山に、僧侶がトルマを放り込むと、同時に火が放たれ、トルマは大きな炎に包まれました。僧侶と村人たちの「キキソソラーギャロー!(神に勝利を!)」という叫び声が、雪の谷間に響き渡っていきます。煙が立ち昇っていく空は、淡く、遠く、どこまでも澄み渡っていました。

冬のザンスカールとプクタル・ゴンパの様子については、拙著『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』の中で、写真とともにより詳しく紹介しているので、よかったらご一読ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です