ツァツァ

チベット文化圏での葬儀というと、遺体を鳥に与える鳥葬がよく知られていますが、ラダックにはそういった風習はなく、火葬が一般的に行われています。村外れの空き地などに点々とある、土で作られた四角い箱のようなものを見たことはないでしょうか? あれがプルカンと呼ばれる火葬場です。レーの街では、シャンティ・ストゥーパの周辺に少しと、ラムドン・スクールの手前の山の斜面にいくつかありますね。

ある人が亡くなると、僧侶たちによって法要が行われ、白布にくるまれた遺体をプルカンに入れ、数日をかけて荼毘に付します。遺灰の大半は山に撒いてしまうので、日本でいうお墓のようなものはラダックには存在しません。ただ、一部の遺灰は、写真のような小さな素焼きの容れ物、ツァツァに入れて、村にあるチョルテンの内側に収めます。

以前、スムダ・チュンという小さな村を訪れた時、ゴンパの裏にあるチョルテンの内側を何の気なしに覗き込んだら、えっ、と思わずのけぞるほど大量のツァツァが収められていて、びっくりしたことがあります。この数軒しか家のない村で、これだけの数のツァツァがここにあるということは、いったい、どれくらい前に遡るのか‥‥。もはや、どれが誰なのかすらわからない状態でした。

輪廻転生を固く信じるラダックの人々にとって、こうしたツァツァの存在は、我々日本人がお墓に対して感じているほど重要なものではないのかもしれません。でも、訪れた先で時折このようなツァツァを見かけると、遠い昔から信仰とともに生きてきた人々の記憶に、ほんの少しだけ触れられるような気がします。

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