レーの街は、祭りが一番盛り上がっているさなかに突然何もかも打ち切られてしまったかのような、奇妙な空虚さが漂っています。
ほんの二週間前まで、街中を賑わせていた旅行者たちも、今はまばらに見かけるだけ。カウンターの後ろで頬杖をついている旅行代理店のオーナーも、骨董品店の軒先で椅子に座っているカシミール人の客引きも、これからどうしていいものやら、途方にくれているように見えます。
2010年8月6日未明、ラダックを襲った集中豪雨は、各地に甚大な被害をもたらしました。洪水によって寸断されていた道路や橋は徐々に復旧しつつありますが、レーの街の電話局が破壊されてしまった影響で、電話やインターネットは今なお不自由な状態が続いています。しばらくはこのブログも写真がアップロードできないことをご了承ください。
ここ数日、帰国後に募金活動をする際に必要な写真を撮影するため、僕はレーやチョグラムサルの被災地を訪れています。もっとも被害が深刻なチョグラムサルの被災地を見た時は、ただもう絶句するしかありませんでした。
北東のサブー方面から流れ落ちてきた土砂は、チョグラムサルの市街を斜めに横切って、行く手にあるものすべてをなぎ倒してしまっていました。人が両手で抱えても持ち上げられないような巨大な岩が、そこらじゅうに転がっています。街道沿いに連なっていた高さ二メートルほどもあるマニ壇も、すっかり土砂に埋もれています。へしゃげた屋根、崩れ落ちた壁、べったりと泥に埋もれた窓や戸口…。踏み潰された空き缶のように、ぺしゃんこになった車やトラック。まるで、ここ一帯に何発も爆弾が落とされたかのような、凄惨な光景でした。
壊れた家の前でしゃがみこむ人たちの傍らでカメラのシャッターを切りながら、僕はどうにもやりきれない、いたたまれない気持になっていました。どうしてこんなことになってしまったのだろう? 僕は、こんな悲しい写真を撮るために、ラダックにやってきたのだろうか?
でも、そうして写真を撮り続けているうちに、僕は昔見たある映画のことを思い出しました。イランのアッバス・キアロスタミ監督の「そして人生はつづく」という映画。監督が以前撮影した映画のロケ地であるイラン北部の村が大地震に見舞われ、映画に出演した子供たちの消息を監督自らが訪ねて回る、という物語です。
映画のスクリーン上には、地震で崩れた家々の無残な瓦礫の山が映し出され続けるのですが、どういうわけかその映画には、希望といってもいいほどの不思議な明るさが宿っていたように思います。たぶんそれは、被災地で途方にくれながらも、自らの足で立ち上がろうとする人々の強さ、けなげさが、スクリーン上に現れていたからかもしれません。
今度の洪水で被災したラダックの人々も、いつかきっと自らの足で立ち上がれるようになる日が来る。でも今は、彼ら自身の力だけで立ち上がることは難しいでしょう。あと二ヶ月もすれば、ラダックには冬が訪れます。食料や救援物資、建築資材を運び込むための道路も、雪で塞がって通れなくなってしまいます。家や畑を失った人々は、マイナス20度の極寒を耐えしのがなければなりません。少しでも早く、的確な、そして継続的な支援が必要です。
前のエントリーでも書きましたが、NGOジュレー・ラダックが、洪水被害復興支援の義援金の募集を始めています。ジュレーラダックは日本在住のラダック人の方が代表を務めるNGOで、現地スタッフのほか、ラダックの人々との人脈も豊富なので、今のところ、日本からもっとも効果的に支援することのできる方法だと思います。
このエントリーを読んで、「ひどいね、かわいそうだね」と思った後、「さて、今日の夕食は何にしよう?」と30秒ですべてを忘れ去ってしまうことは簡単です。「いや、自分は募金とかそういうことをするタイプじゃないから」と、うやむやにしてしまうことも簡単でしょう。それはそれで仕方ありません。でも僕には、そんなことはできない。自分にかけがえのない時間を与えてくれた場所、大切な人々が、目の前でこれほどの危機に瀕しているのを、黙って見過ごすわけにはいきません。
このエントリーを読んでくださった方は、家族や友人、職場の同僚の方など、一人でも多くの人に、ラダックのこと、ラダックの人々が今直面している危機のことを伝えてください。そしてもしよかったら、ほんの少しでもいいので、上記の義援金にご協力ください。一人ひとりにできるのは、ささやかなことかもしれません。でも、そうした支援が一人でも多く集まれば、それはきっと、ラダックの人々が立ち直るための大きな力となるはずです。
家族や友人、家や畑を失ったラダックの人々の人生は、これからも続きます。一人でも多くの方からの支援をお待ちしています。
僕の大切なラダック人の友人も被害にあいました。彼はStokにすんでいるので、比較的被害が少ないほうだったようですが、村にはレーから流れ着いた被災者たちが助けを求めてくるようです。
彼自身もボランティアであくせくしているようです。
本当に大切な友人と、彼が愛する故郷ラダックの力になりたいと、日本でできることをはじめています。
僕も写真をライフワークとしているため、ラダックでの写真を個展にして、チャリティーをすることとしました。
あと、ダライラマ法王東京事務所も、ラダックのために募金を開始しました。
ご無事にご帰国されることを祈っております。
>Kenさん
コメントありがとうございます。日本での活動を始められるとの由、心強いです。よろしくお願いいたします。
遠く離れたラダックの情報は、なかなか届きにくいのが現状です。ラダック洪水については、報道もほとんどされていません(パキスタン洪水とチベット自治区土砂崩れで、手一杯といった感じです)。
山本さんのレポートが、ある意味では情報源となっています。友人に募金を頼む際にも、勝手ではございますが、このブログを読むように勧めています。
こちらこそ、どうぞ宜しくお願いいたします。