Days in Ladakh

今年二度目のラダックへ

上の写真は、ザンスカール最深部の僧院、プクタル・ゴンパ。なんだかんだで、最近よく行ってますね(笑)。

6月26日(水)から約1カ月間、毎年恒例のラダックでのおつとめが始まります。担当しはじめてから今年で5年目になるツアーガイドの仕事の他、つい最近外国人が入域可能になったばかりのハンレの取材。ハンレには、なんと写真家の松尾純さんと道中ご一緒させていただきます。チベット文化圏の撮影では百戦錬磨の松尾さんのお仕事ぶりを間近で見させていただけるので、とても楽しみです。もちろん、自分の撮影仕事もちゃんとやらなきゃならないですけど(汗)。

2019年は、1月から2月にかけて冬のラダックに滞在してきたばかりなので、ワクワク感というよりは「また戻る」感の方が強いんですが(苦笑)、考えてみると、自分の生まれ育った国ではないのに「戻る」という感覚を持てる場所があるというのは、恵まれていることなのかもしれないな、とも思います。

滞在中は、またあれこれいろいろと忙しい日々になりそうですが、合間にでも一息つけたら、あの土地の澄み切って乾いた空気を吸い込みながら、ラダックの今を楽しんでこようと思います。

ではでは。

必要なのは「自信」ではなく「覚悟」

上の写真は、ザンスカール、バルダン・ゴンパの本堂内にある、曼荼羅の壁画。

去年の7月に実施した取材ツアーから始まった、6人の写真家によるラダック写真集「LADAKH LADAKH」のプロジェクト。本の発売、東京と大阪でのトークイベント、そして吉祥寺での合同写真展が終了し、プロジェクトとしては一区切りついた形となりました。トークイベントや写真展に足を運んでくださった方々、本を購入してくださった方々、本当にありがとうございました。「LADAKH LADAKH」自体はまだまだ発売中ですので、ご興味のある方はぜひ。

今回のプロジェクトでは、イベントでの設営や物販などで、大勢の方々にサポートしていただきました。その中には、写真家の道を志しているという若者(と書くと自分がおっさんなのが丸わかりですが、笑)もいて、プロジェクトに参加した写真家の方々から、いろんなことを学ぼうとしていました。

僕自身は、物書きと写真と編集という三足のわらじを履くようになって10年ほど経ちますが、そうした若者たちの手本にはとてもなれそうにないなあ、と思っています。俺のようになるな、とは確実に言えると思いますが(笑)。自分自身の能力にも実績にも、いまだに何の自信も持てていません。ただ、端くれながらもこの業界でどうにか生き延びてきた人間として、一つ伝えられることはあるかな、とは思います。

プロの写真家、物書き、あるいは編集者として必要なのは、「自信」を持つことではない、と僕は思っています。自分の能力や実績に対する「自信」は、ともすると過信となり、油断や慢心、周囲への無配慮につながってしまうからです。

必要なのは、「自信」ではなく「覚悟」。

自分が撮ったり書いたりしようとしている物事や人々の思いを受け止め、その思いを形にするためにベストを尽くし、それを世間に発表する時には、たとえどのような批判をされようとも、甘んじて受ける。一度引き受けた仕事は、どんな困難に出くわしても絶対に投げ出さない。そういう「覚悟」のない人は、どれだけ才能に恵まれていたとしても、プロとしてのスタートラインに立つ資格はないんじゃないかな、と僕は思います。

僕の仕事、特に編集者という立場での仕事は、取材させていただく相手や制作スタッフ、流通から販売に至るさまざまな関係者、そして読者と、たくさんの方々からの思いをお預かりして、それらを本という形に綴じていく仕事です。思いを受け止める立場としての「覚悟」を、自分自身、これからも忘れないようにしたいと思っています。

荒地で一人、石ころを積む

2007年5月、ラダックで足かけ1年半にわたる取材を始めたばかりの頃。僕はサクティの農家に居候しながら、畑仕事の手伝いをしていました。畑仕事はもちろん、チャイの作り方もろくに知らなかった僕が、家の人に「これをやっておいてくれ」と言われたのは、家畜たちを放しておく牧草地を囲む石垣の修繕作業でした。

石ころを拾い集め、石垣の崩れかけた部分に慎重に積み上げていく。照りつける日射しの下、両手のひらに小さな擦り傷をたくさん作りながら、黙々と石を積み続けた午後。あの日のことは、今でもよく憶えています。

あれから十数年。僕はラダックで、あの日と同じようなことをずっと続けてきたような気がします。誰もいない荒地の只中で、たった一人、石ころを積み続けてきたのかな、と。

ラダックでの長期取材を終えて、2009年に「ラダックの風息」という本を完成させた後、僕はもうラダックでやるべきことをやり尽くした、と感じていました。でもその翌年、ラダックで大規模な土石流災害が起きて、600人もの人々が犠牲になった時、僕はラダックでも日本でも、まったく何もできませんでした。

日本では、ほとんどの人がラダックのことを知らない。そこがどんな土地で、どんな人々が暮らしているのか、何も知らない。僕自身がとても大切にしていることは、世の中に全然伝わっていないのだと、思い知らされました。未曾有の災害でラダックの人々が危機に陥っていても、見向きもされない。本当に、悔しかった。

だったら、伝えよう。自分の持っている力をありったけ振り絞って、ラダックのありのままを見つめ、伝え続けていこう。それは僕にとって、仕事でも義務でもなく、役割のようなものなのだ、と。

ラダックのガイドブック。雑誌記事。写真展。トークイベント。現地発ツアーのガイドの仕事。ラダックに関して自分にできることは、それこそ何でもやりました。それで自分という人間がどう評価されようが、どうでもいい。自分にとって大切な場所や人々のことを、伝え続ける。荒地で一人、石ころを積み続けるように、淡々と。

今年上梓された「LADAKH LADAKH」は、6人の写真家の方々をはじめ、大勢の人々の力を借りることによって生まれた本です。それは僕にとって、ラダックのことを世の中に伝えるために新たに積み上げた、一つの大きな石でした。だから、先日モンベル御徒町店で開催したトークイベントの会場に100人を超える方々が集まってくださったのは、本当に嬉しいというか、感無量でした。ありがとうございました。

十数年の歳月をかけて、荒地の只中で積み続けてきた、石ころの山。無駄な努力だ、そんなことをしても誰も見向きもしない、と、いろんな人に言われ続けてきました。でも今、僕が積み続けてきた石ころの山は、偶然そこを通りがかった人がぎょっとするくらいの高さにまでは、大きくなっているのではないかと思います。

その石ころの山も、何かの災害とか、あるいは戦争とか、どうにもならない強大な力によって、突き崩されることもあるかもしれません。でも、そうなったらそうなったで、僕はたぶんまた、一人で淡々と石を積みはじめるでしょう。何が起こってもあきらめずに、自分にできることを、ほんの少しずつでも。

「CAPA」2019年5月号での対談記事掲載のお知らせ

4月20日(土)発売予定のカメラ雑誌「CAPA」2019年5月号の連載企画「安田菜津紀がいま伝えたい・聞いてみたい ドキュメンタリー写真家のメッセージ」に、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんと僕が対談をさせていただいた記事が掲載されることになりました。

思い起こせば、今年1月、僕が冬のラダックでぶるぶる震えていた頃に、この連載企画の担当編集ライターの方からこの件のご依頼のメールをいただいたのでした。あの時は、寝起きしていた宿の部屋があまりにも寒すぎて、MacBook Airを電源プラグにつないでもエラーを起こして充電できないほどでしたね……階下の台所の薪ストーブの前でMacBook Airをあっためさせてもらってから、プラグにつないでました(遠い目)。それから3月中旬に帰国するまで、対談の収録をだいぶお待たせしてしまって、安田さんと担当の方にはご迷惑をおかけしました。すみません。

だからというわけでもないんですが、今回の記事の中では、まだどこにも発表していない、撮りたてホヤホヤの冬のザンスカールの写真を何枚か掲載していただいていますので、お楽しみに。書店で見かけることがあったら、ぜひお手に取ってご覧ください。

冬のラダックへ

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、2019年。いきなりですが、僕は1月中旬からラダックへ旅立ちます。数年前から温めていた取材のプロジェクトがありまして、いよいよそれを実行に移す時が来ました。おおまかな準備はできているのですが、装備のチェックとか、細かい手配の確認とか、まだ詰め切れてない件も残っているので、出発までにぬかりなく確認しておかねば、というところです。

考えてみれば、真冬にラダックを訪れるのは、本当にひさしぶりです。10年ぶりくらいでしょうか。正直、僕自身にもどうなることやらわからない部分も多いのですが、狙い通りの取材を実現できれば、たぶん日本では誰も見たことのない光景と、新しい物語をお届けできると思います。それを形にできるのは、もうしばらく先になりそうですが。

冬のラダックでの取材を終えた後は、インドの別の地域での取材の仕事も入っているので、帰国するのは3月中旬頃になります。約2カ月間のインド旅……長っ(苦笑)。とにもかくにも、がんばります。

3月下旬には、昨年から作っているラダックの新しい本の情報と、それに伴う写真展示やトークイベントについてなど、いろいろお知らせできると思います。どうかお楽しみに。

上の写真は、夜明けのパンゴン・ツォ、メラクにて。