Days in Ladakh

カルナクの旅(3):ツォクラ〜ダト

増水した川に行手を阻まれた翌日、僕たちは午前5時に起きて、空が白んでくるのと同時に出発しました。早朝から午前中にかけての時間帯は、川の水量が比較的少なくなるからです。怖がる馬たちをなだめながら、どうにか渡り切ることに成功。でも、ほっとしている暇はありません。この日は、今回の旅の中でも一番難しい行程だからです。

早足で先を急いでいると、やがて、岩と岩の裂け目の下に川が流れている場所が現れました。裂け目の間には、長さ数メートルほどの小さな橋がかかっていました。

「ノノ、あそこを見ろ」とメメレが指さした岩山の上には、人の手によって作られた古い城のようなものが。かつて、この一帯を治めていた一族の城跡だそうです。「カルナク」という地名は、この黒い城(カル・ナクポ)に由来しているといいます。

ここは、カルナクの最深部。垂直にそびえる険しい岩山の狭間で、カルナク川の本流と支流が合流しています。連続して5、6回の渡渉をくりかえさなければ、ここを突破して先に進むことはできません。ただでさえ難しいこの場所の渡渉を、ここ数日断続的に降り続いていた雨が、さらに困難にしていました。

歩いて渡れそうなポイントを注意深く探して、それでも腰の上まで達する深さの濁流を、怯える馬のくつわにしがみついて身体を支えながら、慎重に、でもすばやく、一気に渡り切ります。もし、濁流で見えない川底の浮き石を踏んで足を滑らせたらどうなるか。もし、川上から流れてきた流木が直撃したらどうなるか。カメラバッグを水没させたらすべての機材がおじゃんですし、それ以前に、この速い流れに押し流されてしまったら、自分自身もお陀仏です。本当に、一か八かの賭けでした。

いつ終わるともしれない困難な渡渉をくりかえし、ようやく硬い地面のある岸辺に這い上がった頃には、雲が切れ、日が射してきていました。30分ほど休憩し、ずぶぬれになった靴や服を日なたで乾かします。あまりにも緊迫した渡渉の連続だったので、もう川を渡らなくていいというのが、にわかには信じられません。

川沿いの小径を伝って、今日の幕営地へと向かいます。地面の上にある道を何も考えずに歩いていけることのありがたさを、しみじみと感じました。

振り返ると、さっき死にそうな目に遭わされたカルナク最深部にそびえる鋭い山々が。くやしまぎれに「二度と来るか、ボケー!」と叫んでみました(笑)。

川沿いの道は次第に開けてきて、そこかしこに湿地が現れるようになりました。小さな花々が、みずみずしい花弁を広げています。

突如目の前に現れた、巨大なマニ壇。真言が刻まれた石や動物の角がうず高く積まれ、日に焼けたタルチョやカタが風にはためいていました。この土地で暮らす、遊牧の民たちの祈りの場所なのでしょうか。

この日は、ダトという集落の少し手前にある、きれいな水が流れている湿地帯のほとりでキャンプを張ることにしました。テントを張り終わってしばらくすると、サーッという音を立てて、驟雨が風とともに通り抜けていきました。テントの入口から外をのぞくと、遠くの山の端に、虹の残滓がかかっていました。

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