海外メディアに「日本最悪の日」と報じられた東北関東大震災が発生して、四日が経ちました。次第に明らかになってきた被災地の凄惨な状態と、刻々と膨れ上がっていく死者・行方不明者の数。数十万人に上る被災者の方々が直面している困難な状況を考えると、胸が抉られるような思いです。また、被災地で不眠不休で救助活動をされている方々、そして危機に瀕している福島の原発で被爆の恐怖と戦いながら懸命に作業を続けている方々に、今はすべてを託してお願いするしかないというのが、本当に心苦しく感じられます。
被災地でない安全な場所にいる僕たちに、いったい何ができるのか? 今の段階では、めいめいが勝手に物資を送りつけたり、ボランティアとして押しかけたりするのは、救助活動の邪魔にしかなりません。ドライな言い方かもしれませんが、日本赤十字社や各地の地方新聞社などのしかるべき窓口に義援金を募金するのが、もっとも適切な支援方法です。救援組織のプロフェッショナルの方々が最大限に力を発揮して活動できるようにするには、何にでも変えられる現金が一番役に立つのです。
義援金以外に、自分たちに何かできることはないのか? 僕は、「課せられた不自由の範囲で、できるだけいつも通りに生活すること」なのではないかと思います。今なお続く余震や、停電による交通網の混乱、物資の不足、絶え間なくテレビに映し出される凄惨な映像など、僕たちの不安感を煽る要素は、今、身の回りにありすぎるほどあります。確かに、亡くなった方を悼む気持や被災者の方々への同情はけっして忘れてはならないものですし、不測の事態に備えることも重要です。ただ、あまりにもそういったマイナスの感情を溜め込みすぎると、被災地でない安全な場所にいる人でも、ぼきっ、と心が折れてしまうことがあるのです。
僕自身、去年の夏にラダックで洪水被害に遭った時、本当に心が折れてしまいそうになりました。長い間慣れ親しんだかけがえのない場所が、途方もない規模の土石流によって無残に変わり果てているのを目の当たりにした時。何百人もの人々が土砂に呑み込まれたまま見つからないでいる被災地の状況を日本に伝えるため、僕はカメラを手に取材をして回らなければなりませんでした。どうして自分はこんなことをしているんだろう? 自分は、こんな悲しい写真を撮るためにラダックに来たのか? 何もできないくやしさで、僕は、やりきれない、いたたまれない思いにずっと苛まれていました。
でも、そんな僕をほっとさせてくれたのは、被災者であるはずのラダックの人々。ノルブリンカ・ゲストハウスの一家をはじめとするかけがえのない友人たちでした。彼らだって、また起こるかもしれない集中豪雨への恐怖に怯えながら、被災地での救助活動や食糧・物資の確保に奔走して、毎日くたくたになっていたのです。でも、電気の来ない暗い台所で、ランタンの灯を囲みながら、みんなでごはんを食べ、他愛のない話で笑いあう。そういった時間をほんの少しでも彼らと感じることで、本当に救われた気がしました。
これから僕たちは、長い間、今回の地震の被災地の人々を、さまざまな形で支え続けていかなければなりません。その支えていく側の僕たちが、ぼきっと心が折れているようでは、何もできません。まずは、計画停電や物資不足といった状況を冷静にふまえながら、自分と自分の大切な人たちの普段の生活をきちんと守る。その上で、節電対策や義援金といった、自分たちにできる支援をしていく。それが今、僕たちがやるべきことなのではないかと思います。
地震が起こった後、ラダックからたくさんの友人たちがメールを送ってきてくれました。「タカ、大丈夫か? ラダックでみんな心配してるぞ。俺たちに何かできることはないか?」と。
大丈夫。僕たちなら、きっとやれます。
私は岩手県盛岡市出身の者です。ヤマタカさんの上の日記を読み、大変救われました。
地震が起きてからの数日間、家族・友達の無事は確認できたものの、ネットテレビで岩手や宮城の映像を見るたびに苦しくて仕方ありませんでした。情報を得なければならずニュースを見る、そして悲しむ。この繰り返しと、更に一人暮らしのため余計に不安になり、何をするにも後ろめたく感じていました。
しかし「課せられた不自由の範囲で、できるだけいつも通りに生活すること」 との言葉を読み、正にその通りだと気持ちを新たにしています。他の方をサポートする余力のある、私たちの心まで折れてしまったらどうにもなりません。
まだまだ辛い事実が発覚するかもしれまんが、今一人一人にできることを精いっぱいやること、以前と同じように笑顔を忘れず前を向くこと、そして自分の命を大切にすること、これが今の私たちに大切なことなのだと改めて感じました。
共有して下さり、どうもありがとうございました。
>○さん
こんにちは。丁寧なコメント、ありがとうございます。この文章が、ほんの少しでも参考になるようでしたら、とても嬉しいです。
一人暮らしをしていると、どうしてもいろいろ考えてしまいますよね。できれば、お友達と会って、いろんなことを全部話してみるといいと思います。ごはんを食べながらだと、さらにいいです(笑)。いつもの自分を忘れず、がんばりましょう。
私もヤマタカさんが紡がれた言葉、写真の男の子の笑顔に、かちかちにこわばっていた心がふわっと柔らかくなりました。
私は塾講師をしていますが、昨日、連日の報道に心が折れそうになりながら出勤し、授業の準備をして子供達を待っていました。
彼らにどんな言葉をかけたらいいんだろうと思案していると、「こんにちわー!」と元気にドアを開けて生徒が入ってきました。もう、その一声にどれだけ救われたことか… 「私はいつも通り、生徒にからかわれながらも、授業を続ければいい。」そう思うことができました。
私たちが、自分で自分の心を折っていたらダメですよね。他者に生かされている命を精一杯生きて、長期戦になる復興にいつでも多面的に協力できるように、心身ともに前を向いて元気でなければ!
ラダックのご友人のお言葉、本当にありがたいです。
いつか、必ず、ラダックに行きたいなぁ。。。
>yakan-daさん
コメント、どうもありがとうございます。そうですね、今は生徒さんたちがいつも通りの笑顔でいられるように授業をなさっていただくことが、一番大事なのではないかと思います。お互いにがんばりましょう。そして、ラダック、いつかぜひいらっしゃってくださいね。