チャダル(1):メンバー&計画&装備

・パドマ・ドルジェ(中央)
ザンスカール、ツァザル出身の31歳。トレッキングガイドとして10年のキャリアを持ち、特にチャダルの経験は数え切れないほど。刻々と変化する氷の状態を的確に判断し、常に一番安全なルートを僕に示してくれました。去年の夏、ラマユルからパドゥムまでのトレッキングの途上で、別のグループのガイドを務めていた彼と仲良くなり、「僕が旅行代理店を通さずに個人でアレンジするから、一緒にチャダルに行こう!」と誘われたのが、今回の旅の始まりです。

・ロブザン・トゥンドゥプ(右)
ザンスカール、ザンラ出身の36歳。普段は村で農業と大工を営む、経験豊富な筋金入りのポーター。誰よりも大きな荷物を軽々と運び、薪の扱いや料理の手際もさすが。ビリ(インドで一番安い煙草)をスパスパ吸いながら、メンバーの大黒柱としてさまざまな仕事をこなしてくれました。

・ロブザン・ツェリン(左)
ザンスカール、ツァザル出身の23歳。数カ月前に色白ですっげーカワイイ奥さんと結婚したばかり。経験の面では他の2人に及ばないものの、彼の最大の強味は、驚くほどの身軽さと度胸のよさ。行く先々の難所で活路を切り開いてくれただけでなく、旅の途中、彼は一人の人間の命を救いました。
心優しくて勇敢で、くだらない冗談とエロ話が大好きな、本物のチャダルの男たち。彼らと共に旅することができたのは、僕にとって大きな幸運でした。

※おことわり
これからお届けする一連のエントリーは、けっしてすべての人に手放しでチャダル・トレックを推奨するためのものではありません。標高3000メートルを越える厳寒期の山岳地帯で、凍結した川の上を辿るチャダル・トレックは、非常にリスクの高いトレッキングです。チャダルの雰囲気を味わいたいだけなら、冬に車でチリンまで行って、凍結した川を眺める程度に止めておいた方が無難でしょう。

しかし今のところ、ヘリコプター以外では真冬のザンスカールを訪れる方法は他にありませんし、日本の書籍やインターネット上には、チャダル・トレックを行う際に必要な情報がほとんど存在しないことも確かです。ここでは、これからチャダルを旅したいと考えている方が万全の準備をして臨めるように、僕の経験を踏まえた上での具体的な情報を紹介したいと思います。

・実施可能な時期は?
ザンスカール川が凍結してチャダルが現れるのは、1月上旬から2月下旬の間。シーズンの始めは氷の状態が不十分な場合もありますし、2月下旬になると雪の降る日が多くなってしまうので、1月中旬から2月中旬までの間に実施するのが現実的でしょう。ちなみに2月上旬は、欧米人の大規模なグループがやってきたりするので、かなり混雑します。

・どれくらいの日数が必要か?
チリンからパドゥムまでは、最低でも片道8、9日はかかります。通行可能なルートはチャダルしかないので、帰りも同じルートを戻らざるを得ません。そうなるとトータルで17、18日間は必要ですが、氷の状態や降雪によって足止めを食うこともよくあるので、かなり余裕を持たせた日程の設定が必要です。あと、せっかく冬のザンスカールを旅するなら、ただ行って帰ってくるのではなく、何日かはどこかの村にゆっくり滞在することをおすすめします。

・ガイドは必要か?
特に初めてチャダルを旅する場合は、正式なライセンスを持っていて、チャダルの経験が豊富なガイドを雇うことが絶対条件です。一般の方の場合は、旅行代理店を通じてガイドを雇った方が賢明です。正式なガイドではないザンスカール出身の人が「一緒にチャダルに行こう」と声をかけてくることがあるかもしれませんが、何かあった時の危機回避能力という点では、経験豊富な本物のガイドには遠く及びません。

・メンバー構成は?
「チャダルでは小さなグループの方がいい」と、パドマ君は僕を含めて4人という人数を提案してくれました。これより人数が少ないと、雪が深くてそりが使えない時にポーターの負担が増えたり、崖を登って難所を迂回する際のサポートが不足するといった問題もあります。その点では、今回のメンバー構成は理想的でした。旅行代理店でアレンジしてもらうと、ガイドの他にコックやコックのアシスタントがついたり、ポーターも雪だるま式に増えたりしますが、これは装備や食料を潤沢に揃えた場合の大名行列的なメンバー構成なので、装備を絞り込めばもっと少なくても大丈夫です。

・服装
冬山登山に使用するような重装備が必要になります。僕は極地仕様のダウンジャケットと中綿入りのパンツを着ていましたが、機能的には問題なかったものの、万一川に落ちてしまった場合に焚火で乾かす手間を考えると、ゴアテックスのアウターシェルの上下に厚手のフリースなどのミドル、保温性の高いインナー、寒い時に着るインナーダウンジャケットといったスタイルの方がいいかもしれません。頭と耳を保護するキャップ、顔を保護するネックウォーマー、岩場を登ったりしても大丈夫な頑丈な手袋(スペアにやや薄手のものがあると便利)、登山用の分厚いウールのソックスなども必要です。これらの細々したアイテムで手を抜くと、凍傷にかかる危険性があります。なお、服にはよく焚火の火の粉で穴が開いたりしますが、それはチャダルの勲章というくらいに思っておいた方がいいでしょう(笑)。

・靴
チャダル・トレックで一番重要な装備は靴です。チャダルではふくらはぎの半ばくらいまで水に浸かる場所を歩くことはざらですし、時にはひざまで埋まる雪の中を歩くこともあるため、一般的な登山靴では役不足です。僕が選んだのは、バフィン社のハンターというモデル。ほぼ完璧な防水性と防寒性を備えていて、チャダルを旅するのに非常に適した靴でした。ちなみに地元の人々は、インド軍が採用している白いラバーブーツをよく履いています。新品は600ルピー程度で入手可能。

・その他の個人装備
靴と同じくらい重要なのが寝袋です。マイナス20?30℃でも対応できる厳寒期用のシュラフが必要になります。地元の人々はインド軍のシュラフをよく使っていますが、これはチャダルよりもさらに寒いシアチェン氷河での使用を想定しているため、防寒性の点では抜群。ただし、ものすごくでかくてかさばります。3000?5000ルピーくらいで入手可能。その他の装備としては、トレッキングステッキやステンレスの魔法瓶などがあると便利かも。レーで手に入る安物で十分です。

・撮影機材の運搬方法
今回は本に掲載するための写真をデジタル一眼レフで撮る必要があったので、撮影機材の運搬には万全を期しました。氷の上でコケても大丈夫なように両手が自由になるバックパック型のもので、完全防水仕様のカメラバッグとなると、現時点ではロープロのドライゾーンという製品くらいしかありません。重いしかさばるし、お世辞にも使いやすいとは言えませんでしたが、万一川に落ちてもカメラは大丈夫という安心感を常に背中に感じることができたのは、大きなメリットでした。もちろん、僕のように撮影が主な目的でない方は、防水仕様のコンパクトカメラを用意した方がはるかに楽ですね。

・バッテリーの保管方法
もっとも頭を悩ませたのは、カメラのバッテリーをどう保管するかという点です。チャダルのように極端な低温下では、バッテリーの電圧は大幅に低下してしまいます。そのため、僕は以前チャダルを取材した経験のあるインド人の映像ジャーナリストが教えてくれた方法を実践することにしました。フリースジャケットの下に薄手のカメラマンベストを着用し、そのポケットにバッテリーを小分けにして入れて、寝る時でも常に肌身離さず、自分の体温で保温。撮影の際は、カメラバッグからカメラを出し、懐からバッテリーを取り出して装填して撮影するというかなり面倒なことになりましたが、効果は抜群で、ニコンD80のバッテリー1本で約400枚の撮影に成功しました。

・共同の装備
チャダルでは馬やロバが使えないため、荷物はできるだけ軽くて少ない方が無難です。今回のパドマ君の提案で意外だったのは、必需品だと思っていた炊事用のケロシンストーブやテントを持っていかないという点でした。彼は洞窟の場所や薪が入手できるポイントを知り尽くしていますし、ザンスカールに入ってしまえば、彼の親戚や友達の家に泊めてもらえるという判断もあったためです。一般の方の場合は、必要と判断されるなら持って行った方がいいでしょう。逆に絶対にあった方がいいのは、ザイル。文字通り、いざという時の命綱になります。

・食料
食料は、4人が片道食いつなげる程度の量を用意し、足りない分はパドゥムや行く先々の村で適宜補充することにしました。米、小麦粉、ダール豆、砂糖、塩、油、スパイス、エッグパウダー、バター、ジャム、茶葉、ミルクパウダー、コーヒー、メギ(インスタントラーメン)、マカロニ、インスタントスープ、ビスケットなど。夏と違って、冬のラダックでは新鮮な野菜が入手できないので、野菜はジャガイモ、タマネギ、乾燥させた青菜、ニンニク、ショウガを用意する程度に止めました。

次のエントリーから、いよいよチャダルのフォトレポートをお届けします。

2件のコメント

Yamataka-san,
Mazu okaerinasai. 無事帰ってきてよかったです。。少し心配でしたが。。もう大丈夫です。。また東京でお会いできるのをお待ちしています。
スカルマ

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