僕にとっての「歩く旅」

ひさしぶりのブログ更新です。約三週間に及んだスピティでの取材を終え、マナリ近郊のヴァシシトまで下りてきました。ここで数日滞在してから、デリー経由で日本に戻ります。

前のエントリーにも書きましたが、今年は当初、ラダックのツォ・カルからスピティのキッバルまで、二週間近くにわたるトレッキングを行い、その後はスピティでいくつかの村を車で回って取材するという計画を立てていました。ところが、そのトレッキングに必要な馬と馬番の手配がうまくいかず、望んでいた出発日と行程、条件での実行が困難になったため、やむなくトレッキングを断念し、車でラダックからスピティに移動することにしました。

当初予定していたトレッキングを断念した分、スピティ内での滞在日程に余裕が生まれたため、それを使って何かできないかと検討していたところ、スピティ北部の標高4500メートル前後の山岳地帯に点在するたくさんの小さな村々をトレッキングで一つひとつ訪ね歩くというプランを、スピティ人の友人のララ君が提案してくれました。スピティをじっくり取材したいと考えていた僕としては願ったり叶ったりのプランだったので、スピティ滞在日程の大半を、これらのトレッキングに費やすことにしたのです。

スピティの山間部の小さな村々を泊まり歩いた日々は、本当に素晴らしい体験でした。薄い空気に息を切らしながら山道を踏み越え、次の目的地の村が目の前に現れるたび、その風景の素朴さと美しさに、まるで宝石を拾い当てたような気分になったものです。その村で土とともに生きる村人たちは、穏やかでシャイで、そして優しい人々。僕は、スピティでなぜかラダック語をしゃべるあやしい日本人として村人たちからもれなくいじられ(苦笑)、子供たちにはまとわりつかれ……。とても新鮮で、楽しくて、幸せな日々でした。

自分の仕事としても、これだけ充実した取材をできたのは、ひさしぶりです。これまでずっと探し続けていた(でも、それが何であるかはっきりとはわからずにいた)、次に僕が作ろうとしている本に必要なパズルの最後の1ピースを、ついに見つけた、という手応えを感じています。当初予定していたラダックからのトレッキングを実行していたら、こうしたスピティ内で時間をかけた村めぐりは日程的に不可能だったことを考えると、やっぱり、こういうめぐりあわせだったのかもしれません。

僕にとって、ラダックやザンスカール、スピティでのトレッキングは、山歩きというより、「歩く旅」というべきものなのかな、と思います。遠い昔から使われてきた「生活の道」を、歩いて辿ることでしか出会えない人々や風景がある。自分がよそ者であることは百も承知で、それでも少しでも人々に受け入れてもらいたくて、最小限の人員と装備で、できるだけ地元の人々の流儀に従って旅をする。そういう「歩く旅」は別に僕の専売特許でも何でもなく、この地で活動してきた写真家の先輩方もそうでしたし、現地にコネのあるリピーターのトレッカーの多くも使っているやり方です。

もちろん、旅やトレッキングのスタイルは人それぞれですし、ほかのやり方を無下に否定したりはしません(大名行列みたいに大仰なトレッキングやツアーは、個人的にはやっぱり苦手ですが、苦笑)。でも、少なくとも僕にとっては、「歩く旅」によってじっくり手間と時間をかけるやり方が、これまで僕が積み重ねてきたラダックについての写真や文章の原点であり、欠かせない手段であるということを、あらためて再確認できた気がしています。

これからの僕にできるのは、この地で得た自分の体験を、写真と文章で形にすることだけです。その成果の価値は、僕が次に作る本の読者の方々が決めてくださると思います。帰国したら、まずはその企画の実現に向けて、がんばろうと思います。

7件のコメント

おかえりなさい!
素晴らしいスピティ旅だったのですね。4500mの村々を訪ね歩くなんて、羨ましいです。。ララさんはお元気でしたか?
私達は、今日1ヶ月のパキスタン旅から帰ってきました。
あちらの小さく素朴な村々も最高でした♪空気の薄い所は良いですね。笑)
また東京でお会いできるのを楽しみにしています。
楽しんで、気をつけて帰ってきて下さい。

yama_takaさん お久しぶりです。
どちらの村々を訪ねられたのでしょうか。
Ladakに続いての発表を楽しみにしています。

>ひろこさん
ありがとうございます。そちらのご旅行もすばらしいものだったようで、何よりです。気をつけて帰ります。
>ソナムさん
おひさしぶりです。今年はソナムさんの知り合いの方(日本人)に何人かお会いしました。今回僕が回った村は、谷の北側の高台にある村をだいたい全部、という感じです。

はじめまして。
「ラダック ザンスカール トラベルガイド」を手にラダックに滞在中です。
高度順応を兼ね、トゥルトゥクまで行ってきました。次は、ザンスカールトレッキングに行ってきます。
yama_takaさんの文章と写真は、愛にあふれていて、どこも行きたくなります。
スピティの本も楽しみにしています。

>momoさん
はじめまして。おほめいただき恐縮です。ザンスカールへのトレッキング、お気をつけて、そして楽しんでくださいね。

それは羨ましい!
Gueも行かれたのですか?
私はまだ行っておらず、ダラムサラの図書館で見たBBC製作のドキュメンタリーも場所をボカしてあるので、どんなところか興味深いです。

>ソナムさん
Gueまではもろもろの関係で行ってないです。最近は行く人も多いみたいですね。

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