8月12日の夕方、予定より一日遅れでレーの街に戻ってきました。留守中に発生した洪水被害の件で、大勢の方々にご心配いただいていたようで、すみません。
ラダック各地で発生した洪水被害については次のエントリーで書くことにして、まずはこの10日ほどの間、僕がどう過ごしていたのかについて書こうと思います。
カルナクへのトレッキングは、出発して以来、ほとんど毎日、夕方から翌朝にかけて断続的に雨に降られるという、ラダックでは珍しい悪天候続きの日々でした。特に8月5日、標高5000メートル近い場所に位置するカン・ヤツェ・ベースキャンプで幕営していた時は、深夜に雹混じりの猛烈な雷雨に見舞われました。僕はひっきりなしに閃く稲妻をテントの天幕越しに見上げながら、「これでもし、テントが吹き飛ばされてしまったら、もうダメかもしれないな」と、半ば覚悟を決めていたことを憶えています。今思えば、あの時の雷雨が、ラダック各地で発生した洪水の引き金になったのかもしれません。
その後のトレッキングの行程でも、日中はほとんど雨に降られなかったのですが、毎晩のように降り続く雨のせいで、いつもならどうということのない川の水が、大幅に増水して激流と化してしまっていたのです。カルナクのトレッキングルートは川を渡渉するポイントが多いことが特徴なのですが、一番難しいポイントでは、腰にまで達する濁流の中を馬のくつわにしがみつきながら渡渉するということを、日に五度も六度も連続してやらなければなりませんでした。うっかり足を滑らせてしまったら、どこまで流されてしまうかわからない。本当にヒヤヒヤものでした。
そんなこんなで、どうにか無事に一週間のトレッキングを終え、8月11日の朝にレーから迎えにくるはずのジープを待っていたのですが、しばらく待っても来る気配がない。これは何か起こったなと察した僕は、トレッキングの終点から6、7時間ほど歩いて、レー〜マナリロード上にあるディブリンというテントホテル群に到着。そこで初めて、ラダック各地で深刻な洪水被害が発生し、レー〜マナリロードもルムツェ近辺で大幅に寸断されてしまっていることを知りました。
レーに戻る道路は寸断され、洪水の影響で電話も通じない。何から何まで八方ふさがりの状況に僕はしばらく途方に暮れていたのですが、その時通りがかったジープのドライバーが「ツォ・カル方面からマヘ橋を経由して迂回して行けば、レーに戻れるんじゃないか?」と教えてくれたのです。
それから僕は、彼のジープと、その後から来たピックアップトラックに乗せてもらって、マヘ橋を経由してチュマタンという村に到着。その夜はそこで泊めてもらって、翌朝、前日と同じピックアップトラックでさらに先に進みました。しかし、ヒミヤという村のあたりで鉄橋が落ちてしまっていて、車はそこから先に進めません。僕はピックアップトラックを降り、橋が落ちている川を歩いて渡って、すべての荷物を担いだまま、そこから先に歩き始めました。
幸運だったのは、一緒に歩いていたラダック人の親子連れ三組がいたこと。というのも、橋が落ちていたところから10キロほどのところで、彼らの知り合いがレーから車で迎えに来てくれていたのです。親子連れは快く僕を車に乗せてくれ、僕はどうにかレーに戻ってくることができたのでした。
トレッキングの最中は、「こんなに毎日雨に降られて、うんざりするような渡渉をくりかえさなければならないなんて、今回は本当にソデメッカン(ツイてない人)だな」とぼやいていたのですが、今になってみると、それは違うなと思います。あれだけの悪天候、悪条件の中で、カルナクの難しいトレッキングルートを歩いていながら、怪我ひとつせず、撮影機材を壊すこともなく、けろっとして乗り切ることができた。道路の復旧まであと何日かかるかわからないような峠の向こう側から、信じられないようなタイミングで連続してヒッチハイクに成功し、レーに戻ってくることができた。しかも、最初と二番目に僕を乗せてくれたジープとピックアップトラックのドライバーは、どちらも僕のラダック人の友達の知り合いだったのです。そういう意味では、僕はつくづくソデチャン(ツイてる人)だった、と思います。
そしてその幸運は、自然がほんの些細な気まぐれで、僕の命を吹き飛ばさないでいてくれたからだということ。本当に不幸なのは、今回の洪水被害で命を失ったり、家族や友人、家や畑を失ってしまったラダックの人々だということを、骨身に沁みて感じています。
だからこそ、帰国するまでに、僕にはここでやらなければならないことがある。今はそう思っています。
先月ラダックでお目にかかった堤です。
ご無事でなによりでした。まだ記憶に新しいあのレーの町、すれちがった人々のことを思うと胸が痛みます。
復興に少しでもお手伝いできればと思っています。
>堤さん
コメントありがとうございます。復興までの道程は険しいと思いますが、どうかよろしくお願いいたします。