ポリバレントという価値

昨日の飲み会でも話題になったのだが、紀行文やガイドブックといった旅行書を作る仕事は、つくづく国際情勢に左右される産業だな、と思う。

たとえば今、ラダックが属するインドのジャンムー・カシミール州は、西方のパキスタンとの停戦ライン付近で、両軍の部隊の交戦が続いている。今のところは小規模な武力衝突だが、間違って何かがこじれたら、大きな戦争にならないともかぎらない。そうなると、ラダック自体にその影響が届かなかったとしても、ラダックに関する書籍などの企画の実現は、しばらく困難になるだろう。

カシミールに限らず、ほかの国や地域だって、天災、人災、いつ何が起こるかわからない。仮に何かが起こった時、そのせいで自分の生活が立ち行かなくなってしまったら、かなりまずい。そういう万が一のことも想定した危機管理について、あらためて考えておかなければ、と感じている。

幸か不幸か、僕は純血のトラベルライターではなく、コンピュータやクリエイティブ系の雑誌や書籍の仕事もしているし、インタビューを中心にしたライターの業務もしている。よろず屋と言えばそれまでだが、種々雑多な仕事を通じて蓄積した経験値で、どんな依頼でもそれなりに対応できるという強味はあるかもしれない。

旅について書くことを仕事の主軸にしたいけど、それ以外の仕事を変に選り好みして、間口を狭めたいとは思わない。大切な目標をおろそかにしないという前提で、自分が作ることに意味が見出せる本なら、積極的にチャレンジしたい。

昔、サッカー日本代表の監督だったイビチャ・オシムは、複数のポジションをこなせる選手のことを「ポリバレント」(多価)と呼んでいた。一人の本の作り手として、そういう価値を持てるようになりたいと思う。

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