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また一冊、作り終えて

ここ一カ月ほど……十月中旬から今週初めくらいまでは、本当に忙しかった。

大半の仕事は『ラダック旅遊大全』の編集作業だったのだが、これまでぬかりなく進めていたはずが、僕の担当する作業範囲から外れたところで、想定外のスケジュールの遅延や大きなミスが発生し、一時は、予定通りに発売できるか危ぶまれるほどの状況に陥った。それらの帳尻を合わせるために、僕も担当編集さんも土日祝日返上で朝から晩まで作業して、遅れたスケジュールをどうにか巻き戻した……という次第。

それでもまあ、どうにかこうにか、また一冊、作り終えることができた。自分にできることはすべてやり尽くしたので、あとはもう、読者の方々の手に委ねて、良い本になったかどうかを判断してもらうしかない。

ラダック旅遊大全』は、仮に将来、改訂版を作るにしても、少なくとも十年は間を空けても持ちこたえられるように作った。だから、この本の改訂版を僕自身が手がけられる機会は、あるとしても、あと一回か、せいぜい二回くらい。そんなものか、とあらためて思う。僕に残されている時間は。

あと何冊、僕は本を作れるのだろう。

次に作りたいと考えている本は……来年初めから取り組む取材で、本を書くに足る確信を持てたら作れるかもしれないが、何とも言えない。もう一冊の企画もあるにはあるが、これは依頼元がどう判断するかにも左右されるので、やはり何とも言えない。少なくとも、2024年のうちには、新しい本を出すことはないと思う。

その次の年は? さらにその先は? 僕自身にも、どうなるか、まったくわからない。

一つ、思っているのは……これからは、一冊々々、良い本を作りたい、ということ。もちろん今までも、その時々の全力を投入して本を作ってきたつもりだけど、これから作る本は、さらに精度と密度を上げて、自分自身で完璧に納得できる本を作り、世に残していきたい。そういう本づくりに取り組める機会が、この先もまだ得られるのなら、自分の持つすべてを賭して、挑んでいきたいと思う。

何というか、今はもう、それだけだ。

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レベッカ・ソルニット『ウォークス 歩くことの精神史』読了。人間にとってもっとも根源的なものの一つでありながら、不確かで捉えどころのない「歩く」という行為。ソルニットは膨大な文献を渉猟し、自らもアクションを起こしながら、「歩く」ことと人間の関係性を、さまざまな視点から紐解いていく。確かな経験と実証、そしてソルニット自身の明晰な知性に裏付けられたこの本の充実ぶりには、脱帽するほかない。ロバート・ムーアの『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』と併せて読むと、さらに面白いと思う。

『ラダック旅遊大全』

『ラダック旅遊大全』
文・写真:山本高樹
価格:本体2000円+税
発行:雷鳥社
B6変形判 224ページ(カラー192ページ)折込地図付
ISBN 978-4-8441-3800-6
配本:2023年12月8日

2年近くの歳月をかけて作ってきた新刊、『ラダック旅遊大全』が、まもなく発売になります。

ラダック、ザンスカール、スピティの全域についての情報を網羅した、まったく新しい仕様のガイドブックです。大判の折込地図をはじめ、地図や写真を豊富に掲載。各地の街や村、僧院、自然、生活、伝統文化についての解説や、2019年に外国人の入域が許可されたばかりの地域の情報、そして各地で延伸が続けられている道路の最新状況なども、わかりやすく、読みやすい形で収録しています。旅行用ガイドブックとして十二分に役立つ機能を持つだけでなく、長年にわたる現地取材に基づいた、地域研究書としての側面も併せ持っています。

発売に際して、一部の書店では先行販売を実施していただくほか、写真展示やイベントなどの企画も準備していただいています。詳細については、Days in Ladakhや各種SNSで発信していきますので、チェックしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

『旅は旨くて、時々苦い』

『旅は旨くて、時々苦い』
文・写真:山本高樹
価格:本体1200円+税
発行:産業編集センター
B6変型判240ページ(カラー16ページ)
ISBN 978-4-86311-339-8
配本:2022年9月中旬

異国を一人で旅するようになってから、三十年余の日々の中で口にしてきた「味の記憶」を軸糸に綴った二十数篇の旅の断章が、『旅は旨くて、時々苦い』という一冊の本になりました。一部の書店では、特製ポストカード2種1組とセットにして販売されます。ポルべニールブックストアでは、サイン本と特製ポストカードのセットを店頭とWebショップで販売していただく予定です。よろしくお願いします。

チームワークについて

次に出す新刊の制作も、いよいよ佳境。来週明けに再校、六月中旬に色校、七月頭に見本誌をチェックし終えたら、無事に完成ということになる。最後の最後まで、まったく気の抜けない作業が続く。

一般的な本の場合、著者は原稿を書き終えたら、その後の作業は編集者にまるっと託して、自身は著者校正や、折々のちょっとした確認、デザイン案などで意見を求められた時に答える程度の状態に落ち着くのが普通だと思う。ただ、去年出した本と今回の本の場合、著者である僕は、原稿を書き終えてからも関わらざるをえない作業が、やたらと多い。結果的に、編集実務のほぼ九割くらいを請け負う状態になってしまっている(ちなみにその分もらっているわけではない)。

台割の策定。写真のセレクト。帯文のコピーライティング。各人からの校正のとりまとめ。デザインの修正提案。特典グッズの提案と準備。進行スケジュールの提案と不備の指摘。何もそこまでしなくても、というところまで関わってしまっている。自分の本だから何一つ適当に済ませたくないし、任すに任せられない厄介な事情もあるのだが、正直、めっちゃ疲れる(苦笑)。

これまで、いろいろな出版社と本づくりの仕事をしてきた中で、各々の担当分野で誠実に協力してくれる方々と非常に良いチームワークを実現できたこともあれば、残念ながらあまり良いチームワークにならなかったこともある。本づくりという仕事に対する姿勢や思い入れの違いとか、理由はいくつかある。僕はただ、読者の方々に喜んでもらえるような本を、一冊々々、誠実に届けていくために、できる努力を全力で尽くしていきたいだけなのだが、世の中には、それが優先事項にならない人もたまにいる。その場合は、もう、折り合えない。

いつもの本づくりでは、書いている時も編集している時も楽しくて、いつまでも校了しなければいいのに、とまで感じる時もある。でも、今作っている本は、できるだけ速やかに、事故なく無事に完成させてしまいたい、と思う。良い本にしたいとは思っているし、自分なりにやり遂げる自信もあるが、正直、あまり楽しくはないし、とにかく疲れる(苦笑)。チームワークの大切さを、痛感している。

はあ。やれやれである。

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李娟『冬牧場 カザフ族遊牧民と旅をして』読了。中国・アルタイの辺境で遊牧生活を営むカザフ族の一家とともに、真冬の放牧地で過ごした数カ月間の記録。軽やかな、でも深みのある筆致で、遊牧生活の素朴さと厳しさ、温もりと孤独が、丹念に描かれている。チベットやモンゴルと同じく、アルタイのカザフ族の遊牧生活も、中国政府が推し進める遊牧民の定住化政策によって、刻々と失われつつある。すっかり消え失せてしまうかもしれない冬牧場での素朴な生活を想う李娟さんの気持は、僕にも痛いほどわかる気がする。

次のフェーズへ

午後、表参道方面へ。今年の夏頃に出す予定の新刊の、デザインについての打ち合わせ。

去年出した「インドの奥のヒマラヤへ」と同じ方々にご担当いただくので、作業の進め方をお互い共有できているから、その点ではかなり心強く、安心してお任せできる。あとは、編集段階での著者校正と、入校前の色校正に、しっかり集中して取り組まねば、だ。

正直、自分が書き下ろした原稿、いまだにあれで大丈夫なのかどうか、自分で自信が持ち切れないでいるのだけど(汗)、ここまで来たら、次のフェーズへと突っ走っていくしかない。常に最善を目指し続けていれば、たぶん、一番良い形に収まる、はず。たぶん……。

校了まで、がんばろ。それしかない。

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焦桐『味の台湾』読了。素晴らしかった。今年これまで読んだ中ではベストの一冊。台湾ならではの食べ物や飲み物について、ひたすら滔々と綴られているのだけれど、その中に、著者自身の人生の光と影が、漂うように滲んでいて。この本に書かれていたことを思い出しながら、いつかまた台湾を訪れたい。