旅のキュレーションメディアの編集部と名乗る人から、メールが届いた。自分たちのサイトで記事を書いてくれないか、という。特に僕という人間を特定しているわけでもなく、誰に送っても当たりさわりのない(テンプレート通りの)内容のメール。とりあえず条件を開示してほしいと答えたら、すぐに(テンプレート通りの)返信が届いた。
その編集部の人曰く、
・旅に関するネタならほぼ何でもOK(観光地、グルメ、ホテル、アクティビティ)。
・自分のブログに書いている記事のリライトでも構わない。
・納期の指定はなし。いつ書いてもいい。
・1本の記事に写真を10枚以上使用。
・原稿料は、記事10本で6000円。
「写真を10枚使用したWeb記事が1本あたり600円」という価格設定を適正と考える人も、もしかすると世の中にはいるのかもしれない。ただ、一応、文筆業でこれまで何十年か生きてきた立場から言わせてもらうと、Web記事であることや新規取材が発生しないことなどを考えあわせても、この値段、相場の10分の1以下。20分の1か、それ以下でも全然おかしくない。
こんなひどい条件でも、何かしらの名前を冠するキュレーションメディアに記事を書いて、ライターと呼ばれる職業の人間になりたいという人は、世の中にいるのかもしれない。だからそれを非難したり止めたりはしないけど、ライターに必要なキャリアの蓄積にはまったくならないであろうことは断言できる。世の有象無象のキュレーションメディアの大半は、記事がでたらめとかでないかぎり(実際はでたらめも多いけど)、内容や質に関してはどうでもいいと考えている。自分たちが糊口をしのぐためのページビューをちまちま稼ぐことができさえすれば、それでいいのだから。
本当に文章を書くのが好きなら、写真を撮るのが好きなら、その大切な文章や写真を二束三文で有象無象の輩に売り飛ばすより、自分自身のサイトをきちんと作って公開したり、リトルプレスやZINEの形にしたりした方が絶対にいい。どういう「届け方」をするのかも、文章や写真にとってはとても大事なことだから。その文章や写真に何らかの価値や思いが宿っているなら、きっと誰かのもとに届くし、それによって何かが変わるはずだと、僕は思う。