そして物語は現れた

昨日の朝、デリーから東京に戻ってきた。

家では、蛇口をひねればお湯が出る。食べ物は、肉も魚も野菜もよりどりみどり。何から何まで快適で、正直ほっとする。この二カ月間は、そういう快適さとはまったくかけ離れた日々だったから。

でも、この二カ月間のかの地での日々は、忘れようにも忘れられない、夢のような毎日でもあった。訪れる前には想像もしていなかった出来事が、次々に起こった。そして気がつくと、一篇の物語が、僕の目の前に現れていた。これは、ちゃんと書かなければ、と思う。この物語を書き残せるのは、僕しかいないだろうから。

これもまた、ある種の運命なのだろうと思う。

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ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』読了。ベストセラーになったのも納得の面白さで、グイグイ読ませる。舞台となる湿地の風景と動植物の緻密な描写は、著名な動物学者でもある著者の面目躍如といった筆致で、素晴らしかった。この本のもう一つの軸であるミステリーの謎解き部分は、やや説得力が弱く、「んん?」と感じる点もあったけれど。

ラドヤード・キプリング『キム』読了。終盤の見せ場の舞台としてスピティが登場するということで読んだ一冊。19世紀当時のインドの風景や人々の生活が鮮やかに描かれていて、楽しめる。ただ、時代的に仕方ないとはいえ、当時の英国によるインド支配を完全肯定してるのはどうなんだろう、と思う。文章も独特のくせがあって、正直ちょっと読みづらかった。

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