スヰートポーヅ

二十代の終わり頃、ほんの二、三年だったが、九段下にあった雑誌の編集部に、契約社員として勤めていた。当時から僕はぼっちが好きだったので(苦笑)、社内の人と一緒におひるを食べに行くことはめったになく、たいてい一人で、神保町の方にぶらぶら歩いていって、どこかの店に入っていた。

すずらん通りの餃子専門店、スヰートポーヅには、通りがかった時に「あ、ここはおいしそう」と直感で入ったのが最初で、あのあたりでは誰もが知ってる老舗の人気店なのだという予備知識は、まったくなかった。完全に皮を閉じていない独特の小ぶりな餃子。赤だしの味噌汁と一緒にたいらげれば、その日の午後は、満ち足りた気分になれた。雑誌の編集部を離れてからも、昼頃に神保町界隈に来る用事がある時は、たいていスヰートポーヅでおひるを食べるようにしていた。

そのスヰートポーヅが、閉店することになったという。コロナ禍の影響か、それ以外に理由があるのかは、わからない。あの店は、あの佇まいで、ずっと変わらずにあそこにあるのだと、どこかで思い込んでいた。でも、変わらないものなど、どこにもないのだろうな。新型コロナウイルスは、日本中の至るところで、それを無慈悲に炙り出している。

嗚呼、残念だ。せめてもう一度、餃子中皿定食、食べたかった。

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