失われた季節感

4週間ぶりにタイから戻ってきた先週末。ひさしぶりに東京の街を歩いていて、あちこちにカボチャやらモンスターやらが飾られているのを見て、「はっはっは、ハロウィーンなんてまだまだ先じゃないか。みんな気が早いなあ」と、完全に素でそう思い込んでいたのは僕だ。まだまだ先どころか、まさに真っ只中だったじゃないか。脳みそから完全に季節感が失われている。

僕の場合、毎年のことながら、ハロウィーンのこの時期が一年のうちで一番日焼けしている。行きつけの理髪店では、「メガネの跡だけ残ってるじゃないですかあ」などと、毎回ケラケラ笑われながら黒焦げっぷりをいじられる。ひさしぶりに長袖の上下を身につけると、皮膚がもそもそして何だか落ち着かない。胃もあったかい食べ物にはなんとなく落ち着かなくて、いまだに「あー、そうめん食べたいなあ」などと思ってしまう。

何から何まで失われている季節感。やれやれである。

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J.D.サリンジャー、柴田元幸訳「ナイン・ストーリーズ」読了(正確に書くと、読んだのは同じ内容の「モンキービジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号」なのだが)。野崎孝訳の「ナイン・ストーリーズ」を読んだのは、もう思い出せないくらい昔で、家の本棚にあったその本の奥付を見たら、昭和62年5月刊行の30刷だった。平易でみずみずしい言葉で綴られた柴田訳であらためて読み通してみると、昔は気付けなかった会話や場面描写の緻密なディテール、何気ない言葉の背後に潜む現実の重さなどに、はっとさせられる。その中でも、シーモア・グラースが主人公の最初の作品「バナナフィッシュ日和」は、自分でもびっくりするくらい、構成や内容を鮮明に覚えていた。それだけインパクトのある、サリンジャー自身にとっても意味のある作品だったからだろうか。

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