単独者の「血」

この間、押し入れの中にあった本や雑誌を処分するために整理していたら、懐かしいものが出てきた。雑誌「Switch」1994年7月号、特集・星野道夫

当時、僕は「Switch」の編集部でアルバイトをしていて、この特集のために収録された、湯川豊さんによる星野道夫さんへのインタビューのテープ起こしを担当した。まだ大学にも在籍していた僕は、編集のイロハもろくに知らず、テープ起こしもほとんど初めてといっていいほどのペーペーだった。かなり長大なインタビューを分担して作業していたので、テープ起こしの内容は断片的にしか憶えていない。

それでも、湯川さんが星野さんと植村直己さんを比較して話をしていた時のくだりは、今でもはっきりと憶えている。植村さんは、生き物の影さえない大氷原の中で、テントを張ってたった一人でいる時、嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだという。誰もいないはるか遠くへ、一人で行く。そのことが「嬉しくて嬉しくて仕方がない」のは、植村さんや星野さんに共通する単独者の「血」のようなものなのではないか、と湯川さんは話していた。

当時の僕には、星野さんや植村さんのそういう「血」の話は、あまりにも自分とかけ離れているように思えて、ちゃんとは理解できなかった。でも、ここ数年、ラダックで積み重ねてきた経験で、その「嬉しくて嬉しくて仕方がない」気持が、少しわかったような気がする。一応、二、三度は山の中で死にかけたし(苦笑)。

遠くへ、一人で。そうでなければ感じられない、自分の弱さ、ちっぽけさ。僕にも、ちょびっとはそういう「血」が流れているのだろうか。

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