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南の国へ

明日から四週間弱ほど、日本を離れる。行き先はタイ。『地球の歩き方タイ』改訂版制作のための取材だ。およそ三年三カ月ぶりの取材になる。

去年の夏のインドで、ある程度は海外取材のリハビリはできていた気もするのだが、今回あらためて、荷造りをしたり、あれやこれやの書類を準備したりしていると、選択に迷ったり、うっかりしそうになったりすることが結構多くて、やっぱりコロナ禍のブランクは大きいなあ、と思う。今年は夏にも再びインドに行く予定なので、悠長なことを言ってるわけにはいかないのだが。

一時よりはいくぶんましになったものの、以前に比べると円安で両替のレートはよくないし、現地の物価もかなり上がっていると聞いているから、取材費をできるだけ節約しながらのつましい旅になりそう。まあ、もともとタイでは贅沢はまったくしないたちで、食堂や屋台のタイごはんですっかり満足できる人間なので、そんなにストレスはたまらないとは思う。

帰国は2月11日(土祝)朝の予定。流行り病にうっかりやられないように気をつけながら、いってきます。

あまり急がず、あまり焦らず

少し前から、新しい本の執筆に、本格的に取り組んでいる。

今度の本は、ここ何年かの間に続けざまに書いていた旅行記ではなく、ある意味、もっと実用的な本。文章と写真以外の要素も複数絡んでくるので、編集者目線でも都度チェックしながら書き進めていく感じになっている。作家的なモードというよりは、純然たるライターのモード。これはこれで、すっかり慣れ親しんでいるというか、いろんな修羅場をくぐり抜けてきたモードではある。

とはいえ、一冊の本を丸々書き下ろすのは、本当に長い、長距離走のような作業なので、あまり急がず、あまり焦らず、でもあまりゆっくりし過ぎないように(苦笑)、淡々と書き進めていこうと思う。

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洪愛珠『オールド台湾食卓記 祖母・母・私の行きつけの店』読了。素晴らしかった。これがデビュー作とは思えないほど、穏やかで抑制が効いていて、それでいてどこかふんわりと軽やかな文章。台湾の古き良き食の伝統と、今は亡き母や祖母とのかけがえのない思い出とが、幾重にも重なり合うように綴られていく。彼女がこれからの彼女自身の人生を生きるために、書かずにはいられなかった、書かれるべくして書かれた本だったのだと思う。

ぶち破っていくだけだ

フリーランスの立場で、物を書いたり、写真を撮ったり、本を作ったりする仕事をしていると、理不尽な理由で悔しい思いをさせられることが、しょっちゅうある。それは、年齢や経験をある程度重ねていってもあまり変わらなくて、むしろ、それらを重ねてきたからこその悔しさを味わう羽目になることも、よくある。

ついこの間も、ちょっとそういう思いをした。まあ、あれはどちらかというと、相手がいきなり全部おっぽり出して、尻尾を巻いて逃げてった、という感じだったけど。

そういう悔しさを晴らすには、僕の場合、自分の信念をけっして曲げずに、どうにか壁を突き抜けて、最善の努力を尽くしながら、一冊の本という形に結実させるしかないのだと思う。そうして完成させた本で、自分の信念が間違っていなかったことを証明するしかないのだと。

ふりかえってみれば、今までも、ずっとそうだったような気がする。「ダメだ」「無理だ」「難しい」と、わかってもいない人たちによって勝手に作られた壁を、一冊、一冊、自分自身で本を作って、自分の信念を自分自身で証明しながら、ぶち破ってきたんだった。

だから、次の壁もまた、ぶち破っていくだけだ。

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藤本和子『イリノイ近景遠景』読了。リチャード・ブローティガンの作品などの翻訳の名手として知られる著者の米国での生活の中から生まれたエッセイと、主にマイノリティの市井の人々へのインタビューを束ねた一冊。軽やかなタッチのエッセイで始まるが、章を追うにつれ、次第に重いテーマへと移っていく。一冊の本としてのまとまり感はやや乏しいが、文章はさすがの切れ味で、インタビューの手法や構成にも学ぶべきところが多かった。

新海誠監督「すずめの戸締まり」鑑賞。前作には正直、物語にいささか無理筋なところを感じたのだが、この作品はシンプルで、まっすぐに突き進んでいく王道のファンタジーだった。思いのほかロードムービー要素が強かったのも、個人的には楽しめた。震災をテーマにしたアニメーション映画を、これだけの公開規模の作品で作るのは、いろいろな意味での勇気と覚悟が必要だったと思う。その点においても敬意を表したい。

仕事の軸足を移す

気がつけば、もう11月だ。夏の終わり頃の時点では、11月はタイ取材に行っている予定だったのだが、まだ日本にいる。依頼元の都合で、取材時期が年明け以降にずれてしまったので、年内は東京に留まることになった。

今年に入ってからの異様な円安と燃油高の影響で、海外取材はかなりハードルが上がってしまっている。自分で企画を立てて自腹で行く取材はもちろん大変だけど、出版社などから依頼を受けて行く海外取材も、取材費の捻出が相当きつくなっていて、採算が合わなくなってきていると聞く。ずっとこの状況が続くかどうかはわからないが、海外取材が絡む仕事の依頼は、減少傾向が続きそうだ。

僕自身、ここ十数年ほどの間は、旅行分野の仕事に軸足を置いていたが、このままでいいかどうか、ちょっと立ち止まって検討した方がいいような気がしている。自分の中で一番大事にしている取材テーマ……ラダックだったり、その他の地域だったりを変えるつもりはないけれど、それ以外のいわゆるライスワーク、継続的に収入を得るための仕事の種類に関しては、海外の動向にあまり振り回されないような分野を組み込んでいくことも考えている。

それは何かと聞かれると、すぐには思い浮かばないのだが……まあ、何かあるだろう。がんばります。

打ち合わせと収録と

昨日は昼から、神宮前で打ち合わせ。次に作る本のデザインについて、担当していただくデザイナーの方々と。

僕自身は、執筆・撮影・編集という役割をほぼ一人でこなす人間なのだが、デザインや造本、印刷といった分野ではまだまだ全然知識不足で、最新技術のノウハウにも追いつけていない。だから、その道の専門職の方々のアイデアを伺えるのは、本当に勉強になる。良い本を作れたらいいなあ。まずは原稿に着手せねばだけど……。

夕方からは、六本木ヒルズのJ-WAVEのスタジオで、コメントの収録に臨んだ。今週末の土曜日に放送される予定だという。先月と今月、2カ月連続でJ-WAVEに出させていただくことになるとは、想像もしていなかった。今回は収録なので、うまく編集されていることを願う……。

もろもろ終わった後、ブリュードッグ六本木に行って、ビールとハンバーガーで一人で軽く飲む。頑張った自分。おつかれ。