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本屋が消えていく

昼、渋谷の映画美学校試写室へ。紹介記事を書く予定の映画の試写を見る。

終わった後、本屋に寄りたくなったのだが、ジュンク堂書店渋谷店は東急百貨店の建て直しの影響で、1月末に閉業してしまっていたことを思い出す。渋谷に来た時にはほぼ当たり前のように立ち寄っていた本屋だったので、何とも言えない喪失感。渋谷ではブックファーストも撤退してしまったし、東京駅前では八重洲ブックセンター本店ももうすぐ閉業だし。東京のあちこちから、本屋が次々と消えていく。

近頃は個人経営の独立系書店が増えたという話も聞くけれど、どこも経営は全然楽ではないそうで、苦労話もあちこちで耳にする。個人的には、最近のエネルギー高騰や物価高からして、あと何年かしたら、アマゾンなどのネット書店で紙の本を買う時の送料も有料化されると予測している。そうなった時、僕たちはどこで本を買えばいいのだろう。今でさえ、すぐ近所に本屋がある街は、日本でも実はそんなに多くはないのに。

結局、僕は渋谷から歩いて代官山に行き、代官山蔦屋書店でほしかった二冊の本のうちの一冊を見つけて買った。もう一冊は、帰りに新宿で途中下車して、紀伊国屋書店新宿本店で手に入れた。仕事用のショルダーバッグは、家から持ってきていた本と合わせて三冊の本で、ぱんぱんになった。

旅行作家と旅写真家について、その後

二年くらい前に、「旅行作家と旅写真家は滅亡するか」というエントリーを書いた。あれから少し時が流れ、コロナ禍は「やや」沈静化し、国と国との間の行き来もかなり復旧してきた。実際、僕自身も、昨年夏にインド、今年の初めにタイに取材をしに行ってきた。

ひさしぶりに海外取材の仕事をしてみて、あらためて思うのは、あのエントリーで書いた予想は的中しつつある、ということ。旅行作家や旅写真家というジャンルの職業の衰退は、想定以上に加速しているかもしれない。

一つには、国際情勢や経済の状況が大きく影響している。ウクライナでの戦争に伴う物流の混乱や、エネルギーや食料の高騰、慢性的な円安傾向などで、海外取材に必要なコストは猛烈に跳ね上がっている。それだけのコストを払って海外取材を敢行し、本なりガイドブックなり雑誌なりを刊行しても、費やしたコストを回収するのはかなり難しい。そもそも、スマートフォンのアプリなどの利便性に押されて、旅関係の雑誌やガイドブックの売上はどんどん落ちていっている。

取材にかかるコストを削減するには、現地在住の協力者に情報提供を依頼したり、ライターやカメラマンへの報酬を減らしたりするしかなくなる。いくら海外での取材が好きでも、生活するのに必要な金額が稼げないなら、職業としては成り立たない。だからやっぱり、旅行作家や旅写真家が活動できる場は、これからどんどん減っていく。

僕自身、これから先、どうしようかなあと思案している。依頼される形でのガイドブックの取材の仕事などは、もう主軸としてはアテにできない(実際、出版社もつぶれたりしたし)。個人的に書きたいと思っているテーマ、作りたいと思っている本の企画は、ライフワークとして追求していきたいが、日々の生活のためのライスワークの選択と配分も、再検討してアップデートしていかなければならない。でないと、早晩、立ち往生してしまうことになる。

厄介な時代になったものだが、過去の遺物となって風化してしまわないように、サバイブできそうな道を模索していこうと思う。

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佐々木美佳『うたいおどる言葉、黄金のベンガルで』読了。「うたいおどる」という形容にふさわしい、伸びやかな筆致で綴られた、ベンガルの大地と人々、言葉、そしてタゴールへの愛着。この本の元となった連載の執筆を続ける間に、コルカタの映画学校への留学を決めてしまうという思い切りのよさには、びっくりした。これからもその軽やかさで、ベンガルにまつわる映画や本の制作に取り組まれていくのだと思う。

南の国から

昨日、タイ取材を終えて、約四週間ぶりに、バンコクから東京に戻ってきた。

ひさしぶりに訪れたタイでは、やはりコロナ禍の爪痕があちこちで目についた。チェンマイなど観光業への依存度が強い街では、たくさんのホテルやゲストハウス、お洒落ショップ、レストランなどが閉業していた。シャッターを締め切っている店、もぬけの殻になった店、廃墟のように荒れ果てていた店。顔馴染みの人と再会して健在ぶりを確認できた時もあったが、会おうにも店自体がなくなっていて、あの人にはもう二度と会えないのかも、と寂しくなった時もあった。COVID-19は、本当にどんな国や人に対しても、容赦がない。大勢の人々の人生が、パンデミックによって決定的に変わってしまったのだな、とあらためて思う。

取材自体はあいかわらずハードで、五十過ぎのおっさんには結構な試練だったが、それでも日々あちこち歩き回りながら撮ったり調べたりする仕事は、やっぱり性に合っているのだと思う。家に籠りっぱなしでWebを頼りながらコタツ記事を量産するような仕事より、よっぽどいい。旨いタイ料理もいろいろ食べられたし(笑)。

とはいえ、帰国早々、すでにいろいろ忙しい。2023年は、このままあっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。一つひとつ、やるしかないな。

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呉明益『自転車泥棒』読了。失踪した父親とともに行方不明になっていた幸福印の自転車を巡って、さまざまな人々、あるいは動物たちの数奇な物語が綴られていく。史実と幻想がないまぜになったそれらの物語は、無数に枝分かれして繁茂する巨木の梢にそれぞれぶらさがっている存在なのだと、読み手は最後に気付かされる。途方もない想像力と緻密なディテールを存分に堪能できる作品だった。

南の国へ

明日から四週間弱ほど、日本を離れる。行き先はタイ。『地球の歩き方タイ』改訂版制作のための取材だ。およそ三年三カ月ぶりの取材になる。

去年の夏のインドで、ある程度は海外取材のリハビリはできていた気もするのだが、今回あらためて、荷造りをしたり、あれやこれやの書類を準備したりしていると、選択に迷ったり、うっかりしそうになったりすることが結構多くて、やっぱりコロナ禍のブランクは大きいなあ、と思う。今年は夏にも再びインドに行く予定なので、悠長なことを言ってるわけにはいかないのだが。

一時よりはいくぶんましになったものの、以前に比べると円安で両替のレートはよくないし、現地の物価もかなり上がっていると聞いているから、取材費をできるだけ節約しながらのつましい旅になりそう。まあ、もともとタイでは贅沢はまったくしないたちで、食堂や屋台のタイごはんですっかり満足できる人間なので、そんなにストレスはたまらないとは思う。

帰国は2月11日(土祝)朝の予定。流行り病にうっかりやられないように気をつけながら、いってきます。

あまり急がず、あまり焦らず

少し前から、新しい本の執筆に、本格的に取り組んでいる。

今度の本は、ここ何年かの間に続けざまに書いていた旅行記ではなく、ある意味、もっと実用的な本。文章と写真以外の要素も複数絡んでくるので、編集者目線でも都度チェックしながら書き進めていく感じになっている。作家的なモードというよりは、純然たるライターのモード。これはこれで、すっかり慣れ親しんでいるというか、いろんな修羅場をくぐり抜けてきたモードではある。

とはいえ、一冊の本を丸々書き下ろすのは、本当に長い、長距離走のような作業なので、あまり急がず、あまり焦らず、でもあまりゆっくりし過ぎないように(苦笑)、淡々と書き進めていこうと思う。

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洪愛珠『オールド台湾食卓記 祖母・母・私の行きつけの店』読了。素晴らしかった。これがデビュー作とは思えないほど、穏やかで抑制が効いていて、それでいてどこかふんわりと軽やかな文章。台湾の古き良き食の伝統と、今は亡き母や祖母とのかけがえのない思い出とが、幾重にも重なり合うように綴られていく。彼女がこれからの彼女自身の人生を生きるために、書かずにはいられなかった、書かれるべくして書かれた本だったのだと思う。