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靴の新旧交代

昼、板橋で取材。一件だけで早めに終わったので、帰る途中で新宿に寄り、新しいトレッキングシューズを買う。キーンのタージーIIローカット。買うのはなんとこれで三代目。オーソドックスな造りの履きやすい靴で、僕のような使い方、つまり、ラダックのような土地でロングトレイルを踏破するのには適している。

今まで使っていたこの靴の二代目も、履けるのは履ける状態なのだが、底の突起はごっそりすり減り、クッションもへたってしまって、ソールがいつ割れはじめてもおかしくない状態。特に長旅の途中で割れてしまうと、どうにもならない。先週の山歩きでその限界を実感したので、意を決して買い替えて、二代目は普段の近所歩き用に退役してもらうことにした。

昔、陸上をやっていた頃、コーチに「靴を大切にして長く履き続けるのは美徳だと思う。だが、それで脚を壊したら元も子もない」と言われたことがある。あの頃履いていたランニングシューズは、練習での酷使で半年も保たなかった。だからといって、ぽいぽい捨てるのもどうかと思うけど。古びた靴は、それでも役立つ場面で使ってあげるようにしたいなと思う。

木漏れ日を辿って

日の光に透ける若葉

たぶん、半年以上ぶりくらいに、山歩きに行くことにした。ルートは、家からのアクセスがラクな、陣馬山から高尾山までの縦走。なまりになまってる身体でも、尾根筋まで出れば、何とか歩けるだろうとの目論見もあった(苦笑)。

新しい腕時計

四年ぶりくらいに、新しい腕時計を買った。カシオのプロトレック PRG-110CJ-1BJF。アマゾンのアフィリエイト収益分を差し引いても結構なお値段だったが、来週は誕生日だから、と自分に言い訳しつつ。

ゴールドのラインをアクセントにした黒のケースと反転液晶。シンプルで精悍なデザインで、腕にはめてみても大きすぎず、しっくりくる。すっかりウキウキしながら、分厚い説明書を見つつ、機能チェック。この時計はその名の通りトレッキング用なので、コンパスや高度計、気圧計、温度計としても使えるのだ。たくさんあるスイッチをあれこれいじくってると‥‥。

‥‥あれ? 温度計がおかしい?

この冬のさなかに、室内とはいえ、27℃というのはちょっとありえない。うーんどうしてかなー初期不良かなーとしばらく考えて‥‥気付いた。そうか、僕の体温で時計本体が温まってしまったからか(苦笑)。

腕につけたままでは気温が計れない、温度計搭載の腕時計。何だかなあ。ま、いっか。

鶴の群れ

キャンプ・デナリに滞在していた時、一人のガイドと親しくなった。彼の名はフリッツ。スイス人である彼は、二十年前にこの地にやってきて、ガイドとして働くようになった。家族は、国立公園の入口でB&Bを経営している。とても気さくな人で、日本人で一人だけストレニアス・グループでのトレッキングに参加していた僕に、「いいぞ、タカ! どんどん歩け! ゴーゴー!」と声をかけて焚き付けたりしていた。

ある日、「ポトラッチ」キャビンでの夕食の時、向かいの席にいたフリッツが僕に訊いた。

「タカ、君は何の仕事をしているんだ?」
「写真を撮ったり、文章を書いたりして、それを本にする仕事をしてるんだよ」
「そうか、フォトグラファーか。僕も一人、日本のフォトグラファーを知ってる。ミチオだ。ミチオは素晴らしいフォトグラファーだった。デナリで撮影していた時、彼はよくこのキャンプ・デナリに遊びに来ていたんだよ」

その時、クァ、クァ、という鳴き声が、遠くから幾重にも重なり合うようにして聴こえてきた。何だろう? みんな席を立って、「ポトラッチ」の外に出る。灰色の空の彼方から、隊列を組んだ鳥のシルエットが近づいてくる。鶴だ。それも、十羽や二十羽どころではない。次から次へと隊列が集まってきて、キャンプ・デナリの真上で渦を巻くように、どんどん大きな群れになっていく。数百羽? いや、千羽以上はいたのではないだろうか。

「サンドヒル・クレーンだ。南の山脈が悪天候で越えられなくて、ねぐらを探してここに集まってきたんだろう。こんな大きな群れを見たのは、二十年ぶりだ‥‥」フリッツが呟いた。

ミチオ‥‥星野道夫さんも、原野で一人でキャンプを張っていた時、こんな鶴の群れを、じっと見上げたりしていたのだろうか。千羽を超える鶴たちは、クァ、クァ、と寂しげに鳴き交わしながら、やがて、北の稜線の彼方に消えた。

英語でスピーチ

この間のアラスカ旅行で、デナリ国立公園のキャンプ・デナリに滞在していた時のこと。

キャンプ・デナリに泊まる人のほとんどは、昼の間、ロッジのガイドとともに周辺のハイキングに出かける。目的地はその時の状況によってさまざまだが、年配の人や体力に自信がない人向けの自然観察コース、一般の人向けのモデラート・コース、もうちょっと体力に自信がある人向けのストレニアス・コースがある。母をはじめとする日本人ツアーの参加者はみんなモデラート・コースだったのだが、僕はスピティの高地で増殖したヘモグロビンを持て余していたので(笑)、少人数のストレニアス・コースに参加させてもらっていた。

ハイキングから戻ってきて、ポトラッチと呼ばれる食堂のキャピンで夕食を食べた後、ハイキングの各グループの代表者が、その日の報告をする。どんなコースを歩いたか、どんな野生動物を見たか、どんな出来事があったか‥‥。基本的にはその日のガイドが報告を担当するのだが、たまに、参加者の中の一人が自ら報告をする場合もある。

滞在三日目のハイキングを終えてロッジに戻ってきた時、ガイドのマーサがいきなり僕に言った。

「タカ、今日の報告は、あなたがやりなさい。英語と日本語、両方でね!」

‥‥え? えぇ?!

数十人はいる宿泊客(もちろんほとんど外国人)の前で、僕が、英語でスピーチ?! しかも、夕食まで一時間半しかない‥‥。ここ最近の仕事でも感じたことがないほど、顔から血の気が引いていくのがわかった。

これまでのハイキングの報告では、ロッジのガイドはみんな、外国人特有のウィットの利いたノリで笑いを取りつつ、いい感じで話を進めていた。もちろん、僕にはそんな真似はとてもできないけど、「いやー、日本人なんで英語ダメなんっすよ」みたいな感じでお茶を濁して逃げたりもしたくない。なんとかせねば‥‥えらいことになった‥‥。

夕食後、ハイキングの各グループの報告が始まり、いよいよ僕の番が回ってきた。この日歩いたコースの説明から始めて、風が強くて尾根の上ではとても寒かったとか、おひるを食べた後にちょっと昼寝したとか、地リスを何度か見かけたとか、マーサがデナリの地質学的な成り立ちを教えてくれたとか‥‥。で、最後にこう付け足した。

「僕の個人的なハイライトは、小川を渡る時に飛び越えようとして失敗して、川に落っこちたことです‥‥」

場内、大笑い。その後もみんな寄ってきて、「君、川に落ちたのか! どれくらいこっぴどく落ちたんだ?」と声をかけてくる始末。こういうことを面白がるのは、どこの国の人も変わらないようだ。

アラスカくんだりで、身体を張って笑いを取ったみたいな感じになってしまった(苦笑)。