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「K.G.F : CHAPTER 1 / CHAPTER 2」

先週、三日連続でインド映画を観に行った。最初の二本は、「K.G.F」の第一章と第二章。同じ日にまとめて観ることもできなくはなかったが、一本あたり三時間もあるし、日を分けた方が頭の中で情報を整理できるのでいい、というアドバイスももらったので。

ボンベイのスラムで生まれ育ったロッキーは、幼い頃に死別した母の言葉を胸に、裏社会で誰もが恐れる無敵の存在としてのし上がっていく。マフィアのボスは、謎多き存在である金鉱「K.G.F」への潜入と支配者の暗殺をロッキーに命じる。K.G.Fの覇権を巡って、国家をも巻き込んだ権謀術数入り乱れる争いが始まる……。

……凄い映画だった。本国で「RRR」よりヒットしたというのも頷ける。ほぼ全編、エグいほどのバイオレンス(「バイオレンス、ライクス、ミー」)で塗りつぶされているが、ロッキーの行動原理自体は、亡き母への思慕と、弱き者たちを虐げる存在への怒りとで満ち満ちている。生まれ育った環境によって、富と権力が極端に偏在し、それらが是正される機会も非常に少ないインド社会(程度の差こそあれ、他の国でも同じだと思うが)において、ロッキーのようにすべてを力づくで薙ぎ倒してぶっ飛ばしてくれるダークヒーローの物語は、常に待望されているものなのかもしれない。

できれば、映画館で観た方がいい作品。未見の方は、他の予定を後回しにしてでも、上映回のあるうちに、ぜひ。

「ブラフマーストラ」

最近のインド映画界では、「RRR」や「KGF」などヒンドゥー語圏以外で作られた作品が大ヒットして注目を集めているが、そんな中で去年、満を持して公開されて手堅くヒットを記録したボリウッド映画「ブラフマーストラ」。日本でも先月公開されたので、仕事の合間を縫って観に行ってきた。

古代から密かに継承されてきた、神々の武器「アストラ」。その中でも最強とされる「ブラフマーストラ」の争奪を巡って、善と悪の運命が交錯してゆく物語。宿命を背負って生まれた主人公シヴァに、ランビール・カプール。彼と運命的な出会いを果たすヒロインのイーシャは、今やランビールの妻でもあるアーリヤー・バット。ほかにも、アミターブ・バッチャンやシャー・ルク・カーンなどの豪華キャストが、それぞれ重要な役割を務めている。特に、序盤に登場するシャー・ルクの見せ場はすごくて、「えっ……主人公?」と思ってしまった(笑)。全編にわたってVFXが多用されているのだが、思いの外クオリティが高くて、違和感がない。

物語自体は、現代社会を舞台に神話的要素を組み込んだ、王道のヒロイック・ファンタジーという趣き。主人公が自身の宿命に目覚め、少しずつ能力をステップアップさせながら敵に立ち向かっていくという構図も、王道。逆に言えば、ある程度先が読めてしまう展開でもあるのだけれど、過去に遡るらしい続編(ディーピカー・パードゥコーンが本格的に登場するらしい。もう一人は……?)の展開は読めない部分もあるので、そのあたりは期待して待ちたい。

「ムンナ兄貴とガンディー」

東京外国語大学で昨日行われたTUFS Cinema南アジア映画特集で、「ムンナ兄貴とガンディー」を観た。ラージクマール・ヒラニ監督による2006年制作の作品で、同監督の出世作「ムンナー・バーイ」シリーズの2作目。主演のムンナ兄貴にサンジャイ・ダッド、ヒロインはヴィディヤ・バーラン。子分のサーキットのアルシャド・ワルシや、憎めないラッキー・シンのボーマン・イラニなどの脇役も芸達者揃い。

ムンバイの筋金入りのヤクザ、ムンナ兄貴は、ラジオDJのジャンヴィ(の声)に夢中。彼女に一目会いたいと、番組が企画したガンディーにまつわるクイズに応募し、ズルい方法(笑)を使って全問正解。念願叶ってジャンヴィと知り合えたものの、ひょんな成り行きでガンディーの知識を身につけなければならなくなったムンナ兄貴は、図書館にこもって彼にまつわる本を読みあさる。すると、目の前に現れたのは……。

この作品、スラップスティックなコメディ映画として実によくできていて、物語の展開も、お約束通りと思わせておいて常にその斜め上をいくので、最後までまったく飽きない。ヤクザ者が主人公なのに、バイオレンスなアクションがほとんどない。にもかかわらず痛快。そしてしんみり考えさせられたり、ほろりと泣かされたり。あまりネタバレしてしまうのもよくないのでこのあたりにしておくが、何なんだろう。すごい物語を観させてもらった気がする。藤井美佳さんによる日本語字幕も素晴らしかった……。

映画を観終えて、建物の外に出た時、何ともいえない爽快さと満たされた気分に浸れるのは、ヒラニ監督の作品に共通する後味だと僕は思っている。

「エンドロールのつづき」

最近は日本でも、ほぼ毎月のように、インド映画が各地の劇場で上映されるようになった。以前、映画祭や特集上映に何度も足を運んだり、エアインディアの機内で寝る間も惜しんで観まくってた頃に比べると、隔世の感がある。「バーフバリ」や「RRR」などのヒットのおかげもあるが、この点に関しては、良い時代になったものだと思う。

今回観たのは、グジャラート映画「エンドロールのつづき」(英題「Last Film Show」)。グジャラート出身のパン・ナリン監督は、BBCなどやディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー番組の制作でキャリアを積んできた方だそうで、この作品は、本年度のアカデミー賞国際長編映画賞のインド代表に選ばれている。

監督自身の少年時代への追憶を基にした物語は、グジャラートののどかな自然の中にぽつんとある、小さな鉄道駅から始まる。駅でしがないチャイ屋を営む父と、寡黙だが料理上手な母に育てられている少年、サマイは、学校のかたわら、父のチャイ屋を手伝いながらも、街の映画館で観た映画への憧れと好奇心を日々抑えきれずにいた。ある日、映画館に忍び込んだものの、つまみ出されてしまったサマイを見かけた映写技師のファザルは、ある提案を持ちかける。サマイの母が作った弁当と引き換えに、サマイに映写室から映画を観させてやる、というのだ。映写室から開けた新しい世界に目覚めたサマイは、やがて……。

持てる者と持たざる者との格差がいまだに苛烈なインドの社会で、持たざる者が夢を見て、それを叶えることは、簡単ではない。サマイと友人たちが、映画への渇望を抑えきれずにあの手この手で工夫をし続けて(してはいけないことまでしてしまって)、結果的に辿り着いたのは、持たざるが故に発見した、映画の原点とも呼べる姿だった。ある意味で映画の本質に触れたサマイは、その後、周囲との別離と旅立ちの時を迎える。

最初から最後まで、映画と映写機とフィルムに対する監督自身の愛着と惜別の思いがたっぷり詰まっていて、光と色彩に溢れた映像も美しい。いつか、グジャラートに行ってみたいな、と思った。

「響け! 情熱のムリダンガム」

南インドの伝統的なカルナータカ音楽で用いられる打楽器、ムリダンガム。ジャックフルーツの木をくり抜き、3種類の動物の皮を張った両面太鼓だ。

このムリダンガムを作る職人の息子として生まれた主人公、ピーターは、タミル映画のスター、ヴィジャイの推し活だけに精を出す怠惰な日々を過ごしていた。そんな彼はある日、ひょんなことから、ムリダンガム演奏の巨匠ヴェンブ・アイヤルの演奏を目の当たりにして、衝撃を受ける。ムリダンガム奏者になりたいという夢を抱くようになり、憧れの巨匠に弟子入りを志願するピーター。しかし彼の前には、カーストによる差別や兄弟子の嫌がらせなど、さまざまな壁が立ちはだかる。大きなトラブルに巻き込まれ、師匠から破門されてしまったピーターは、世界に存在する未知のリズムを求め、インド各地を放浪する旅に出る……。

2018年の東京国際映画祭で「世界はリズムで満ちている」という邦題で公開され、今回「響け! 情熱のムリダンガム」という新たなタイトルで劇場公開されることになった、このタミル映画。事前になるべく情報を入れないようにして、公開初日に観に行った。よかった……予想の何倍もよかった……。演奏シーンに不自然なところがまったくないのは、大半を俳優自身が演奏しているからなのだという。言い換えれば、演奏ができる俳優を選んで起用したということだ。主演のG.V.プラカーシュ・クマールは、俳優になる以前からタミル映画界で気鋭の音楽監督だったというから、むべなるかなである。

ピーターが、それまで抱き続けてきたさまざまな思いを秘めながら、一心不乱にムリダンガムを叩き続けるクライマックスの演奏シーンと、その後の師匠との会話は、観ていてグッと胸が熱くなった。あらゆる人におすすめできる良作だと思う。