ゲラは心を映す

午後、市ヶ谷で打ち合わせ。今作っている本の初校ゲラを突き合わせながら、出版社の編集者さんと打ち合わせ。会議室の貸切時間をオーバーするまで、みっちりと話し合う。

ゲラチェックは、雑誌の編集者だった頃からの馴染み深い作業だ。自分が作ったページを他の編集者さんにチェックしてもらったことも、数え切れないほどある。誰がやっても同じような作業と思われがちだが、ゲラへの赤字の入れ方には、その編集者の個性や人柄が如実に出ると思う。

印刷みたいに几帳面な字で書かれた赤字もあれば、ザザザッと勢いよく書き込まれた赤字もある。担当者への誠意が伝わるような丁寧な赤字であることがほとんどだが、たまに、明らかにこちらを見下しているような赤字を受け取ることもある。少しでも内容を面白くしようとあれこれ提案してくれた赤字をもらったこともあれば、たいして興味ないと言わんばかりに投げやりな赤字をもらったこともあった。ゲラに書き込まれた赤字は、編集者の心を映すのだ。

今日受け取った初校ゲラには、最初から最後までびっしりと、そして丁寧に赤字が書き込まれていた。いい本を作りたい。そう思ってくれていることが伝わってくるような赤字だった。

車窓の記憶

二十代の頃から、国から国、街から街へと、あちこちを旅してきた。飛行機はあまり好きじゃないし、お金もなかったから、移動はもっぱら、列車かバス。そうした移動の時、僕は音楽を聴いたりはしない。ただずっと、窓の外を見ているのが好きだ。

今まで見てきた車窓からの風景の中で、特に記憶に残っているのは‥‥二つある。

一つは、初めての海外旅行の時、中国のウルムチから北京へと向かう長距離列車。深夜にウルムチ駅を発車した直後、橙色の町の灯りが次第にまばらになって、闇に吸い込まれていくのを眺めていた。あの時の、胸をぎゅっと締めつけられるような寂しさは、それまでに経験したことがないものだった。

もう一つは、十年前のアジア横断の旅の時、パキスタンのクエッタから国境を越え、ザヘダン、バムを経て、シラーズへと向かうバス。かつて、バックパッカーに世界三大悪路とも呼ばれたこの道程では、灰色の土漠が果てしなく続く。時折突風で土煙が上がるだけで、生き物の影すらない。何もかも剥ぎ取られたその風景を見つめながら、僕は何時間もの間、ずっと物思いに耽っていたことを憶えている。

もっと鮮烈で美しい風景もたくさん見てきたはずなのだが、今、パッと脳裏によぎるのは、なぜかそういう寂しい風景だったりする。たぶん、僕が憶えているのは、その風景を見つめていた時の自分自身の思い、なのだろう。

iPad 2

iPad 2が家に届いてから、10日ほど経った。僕が買ったのは、一番安いWi-Fiのみの16GB、ブラックモデル。家ではもっぱら、ソファでくつろいでいる時に触っている。

そう、「触って」しまうのだ。iPad 2とはどんなものか、僕なりにひとことで言い表すと、「そばにあると、ついつい触ってしまうガジェット」ということになる。

胡桃の味

今日も雨。まだ五月だというのに、早くも台風が接近しているらしい。

家に閉じこもっているのも癪だし、かといって、雨の中を遠出したくもない。がっつり酒を飲む気分でもない‥‥。というわけで、晩飯は東小金井のインド富士へ。初夏にふさわしく、カツオのカレーがラインナップ。何とも言えない甘味があって、素晴らしく美味。ビールと一緒に注文したホタルイカのマリネともども、おいしくいただいた。

その後、西国分寺のクルミドコーヒーへ。レアチーズケーキにはちみつレモンをかけ、深々煎りコーヒーとともにいただく。あまりにうまくて、コーヒーをおかわりしてしまった。

クルミドコーヒーでは、テーブルの上に胡桃と胡桃割りが置いてあって、お客さんが好きなだけ自分で割って食べることができる。試しに一つ、二つ割って、ぽりぽり食べてみる。懐かしい味。ラダックのダーにいた時、村の少年が僕にくれた、あの胡桃の味。

納豆ミートソースパスタ

僕は家でよくパスタを作る。ソースは出来合いのものを使うことが多いのだが、最近よく作っているアレンジ版が、納豆ミートソースパスタ。「ありえない」とどん引きした人もいるかもしれないが、これがなかなかうまいのだ。

元はといえば、三鷹のパスタの名店、わざやで食べて気に入ったのが始まり。さすがにお店のようにお洒落には作れないけど、家で自己流に作っても、それなりにうまい。パスタを茹でている横で、別の鍋でミートソースを温めてから火を切って、納豆(普通に粘りが出るまで混ぜ、からしや醤油を合わせて、さらに混ぜておく)をミートソースに投入。パスタが茹で上がったら、ミートソースと納豆の鍋に入れて、よーく混ぜて絡めるとできあがり。

いや、本当にうまいんだって。だまされたと思って、やってみるがよろし。