車窓の記憶

二十代の頃から、国から国、街から街へと、あちこちを旅してきた。飛行機はあまり好きじゃないし、お金もなかったから、移動はもっぱら、列車かバス。そうした移動の時、僕は音楽を聴いたりはしない。ただずっと、窓の外を見ているのが好きだ。

今まで見てきた車窓からの風景の中で、特に記憶に残っているのは‥‥二つある。

一つは、初めての海外旅行の時、中国のウルムチから北京へと向かう長距離列車。深夜にウルムチ駅を発車した直後、橙色の町の灯りが次第にまばらになって、闇に吸い込まれていくのを眺めていた。あの時の、胸をぎゅっと締めつけられるような寂しさは、それまでに経験したことがないものだった。

もう一つは、十年前のアジア横断の旅の時、パキスタンのクエッタから国境を越え、ザヘダン、バムを経て、シラーズへと向かうバス。かつて、バックパッカーに世界三大悪路とも呼ばれたこの道程では、灰色の土漠が果てしなく続く。時折突風で土煙が上がるだけで、生き物の影すらない。何もかも剥ぎ取られたその風景を見つめながら、僕は何時間もの間、ずっと物思いに耽っていたことを憶えている。

もっと鮮烈で美しい風景もたくさん見てきたはずなのだが、今、パッと脳裏によぎるのは、なぜかそういう寂しい風景だったりする。たぶん、僕が憶えているのは、その風景を見つめていた時の自分自身の思い、なのだろう。

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