畠山美由紀の曲は、昔から好きでよく聴いていた。気がつけばソロアルバムはほぼ全部持っているし、Port of Notesのベスト盤もある。特にお気に入りの「わたしのうた」は、iPodに入れてラダックに持って行ったりもした。豊かな低音から伸びやかな高音まで、素晴らしい安定感で歌い上げる彼女の歌声は本当に魅力的で、機会があればライブにも足を運んでみたいと思っているのだが、未だ叶わないでいる。
その畠山美由紀の5枚目のアルバム「わが美しき故郷よ」は、過去の彼女の作品とは、根本的に違う。彼女の故郷は、宮城県気仙沼市。3月11日の東日本大震災の後、これまでに感じたことのない痛みと喪失感に苛まれながら、彼女は歌い手として必死の思いでこの作品に取り組んだのだという。
いつも心の奥底にある、大切な故郷の記憶。そこではずっと、美しい海と山と川と、懐かしい町と、心穏やかな人々が暮らしているはずだった。そのかけがえのない故郷で、たくさんの命と、たくさんの大切なものが失われてしまった。書かずにはいられなかった言葉。歌わずにはいられなかった曲。その抜き差しならない彼女の思いが、この作品の中にぎゅっと込められている。特に、表題曲となっている「わが美しき故郷よ」の詩の朗読と楽曲は、じっと耳を傾けていると、目に涙が滲んできて仕方なかった。
どれほどの哀しみに襲われようと、それでも、地球は回り、夜が明け、明日が来て、人生は続いていく。みんな、胸の奥に痛みを抱えながら、互いに手を差し伸べ、優しい言葉をかけあって生きていくのだ。彼女は未だ癒えない哀しみとともに、これから続いていく世界を全力で肯定しているように感じた。
忘れてはいけないものがある。たとえそれが、哀しい記憶であっても。