タイで取材に明け暮れた日々は、とにもかくにも、暑かった。
灼けつく日射しはチリチリと肌を焦がし、じっとり湿った空気は濡れたシーツのように身体にまとわりつく。最初のうち、汗は文字通り滝のように流れ出るが、こまめに水を補給しないと、汗すら止まって、頭の中がぼーっとかすんでくる。
そもそも、地元のタイの人たちも、一番暑い昼下がりには、むやみに外を出歩いたりしない。取材のノルマを抱えてるとはいえ、そんな暑い時間帯にあくせく外を歩き回ってる僕の方が悪いのだ。
そんなわけで一日が終わる頃には、疲労困憊ぶりも半端なかったので、消耗した分を補うべく、食事はできるだけちゃんと摂るようにしていた。するとそのうち、目玉焼きにふりかける塩とか、ナムプラーの塩辛さとか、そういうしょっぱい味がやたらにうまく感じられるようになった。
無理もない。毎日汗をだくだくかきまくって、しまいには汗もろくに出なくなって、肌の表面からは塩が噴き出してガサガサになっていたのだ。南国では、塩の補給が大切なのだと、身に沁みて実感した。