このブログでも何度か書いたが、僕は最近、ある地方自治体から依頼された、文章術の講師のような仕事を担当している。その地方自治体のプログラムに参加している一般の方々が地元のNPOや市民団体を取材して書いたレポートを添削し、どこをどう直せばよりよい文章になるか、ミーティングの場で相談に乗るというものだ。
文章の書き方なんて、誰かに教わったこともなければ、教えたこともない。依頼を引き受けた時は、正直どうしたものやらと途方に暮れていたのだが、ミーティングで自分なりの取材の仕方、文章の書き方について話をすると、参加者の方々は「へぇ〜」「ほぉ〜」といった感じで、かなり興味を示してくれた。自分では日頃からごく当たり前にやっていることなのだが、ライターがどんな風に仕事をしているのかということは、世間ではあまり知られていないようだ。
そんな経験もあって、これを機に自分自身の仕事を振り返ってみようと思って手にしたのが、この「書いて生きていく プロ文章論」という本だった。
この本は「文章論」と銘打たれてはいるが、著者の上阪徹さんが冒頭で言及しているように、文章の「技術論」ではなく、「文章を書く上での心得」について書かれている。上阪さんは、経営や金融、ベンチャーなどの分野で活躍されている辣腕のライターで、知名度や実績では僕は足元にも及ばないが(笑)、ほぼ同年代で、同じようにインタビューの仕事を中心に手がけてきたこともあって、共感できる「心得」もずいぶん多かった。読者をしっかりとイメージすること、何を伝えたいのかを突き詰めていくこと、文章術と同じかそれ以上にインタビュー術が重要だということ‥‥。僕にとっては、新たな「発見」というより、自分の仕事の仕方を「再確認」させてもらった一冊。自分に足りない部分があるとすれば、それはこうした「心得」の一つひとつを、ちゃんと徹底しきれていない時があることだろう。同業者の方々も、読み進めていくうちに「うっ!」と思わされるくだりが少なからずあるのではないだろうか。
この本のあとがきで上阪さんは「考えてみれば、本書は〝自分の考え〟を〝自分の言葉〟で構成した初めての本です。もしかすると、初めての本当の自分の本、といえるのかもしれません」と書いている。すでにベストセラーを含めて何十冊もの本を出している方だけど、そんな風に「初めての本当の自分の本」と思える一冊を書けたというのは、喜びもひとしおだったのではないかと思う。自分が心の底から大切にしていることを伝えるために、ありったけの思いをこめて、文章を書く。それはこの仕事で一番、愉しくて、難しくて、やりがいのあることだから。