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車窓の記憶

二十代の頃から、国から国、街から街へと、あちこちを旅してきた。飛行機はあまり好きじゃないし、お金もなかったから、移動はもっぱら、列車かバス。そうした移動の時、僕は音楽を聴いたりはしない。ただずっと、窓の外を見ているのが好きだ。

今まで見てきた車窓からの風景の中で、特に記憶に残っているのは‥‥二つある。

一つは、初めての海外旅行の時、中国のウルムチから北京へと向かう長距離列車。深夜にウルムチ駅を発車した直後、橙色の町の灯りが次第にまばらになって、闇に吸い込まれていくのを眺めていた。あの時の、胸をぎゅっと締めつけられるような寂しさは、それまでに経験したことがないものだった。

もう一つは、十年前のアジア横断の旅の時、パキスタンのクエッタから国境を越え、ザヘダン、バムを経て、シラーズへと向かうバス。かつて、バックパッカーに世界三大悪路とも呼ばれたこの道程では、灰色の土漠が果てしなく続く。時折突風で土煙が上がるだけで、生き物の影すらない。何もかも剥ぎ取られたその風景を見つめながら、僕は何時間もの間、ずっと物思いに耽っていたことを憶えている。

もっと鮮烈で美しい風景もたくさん見てきたはずなのだが、今、パッと脳裏によぎるのは、なぜかそういう寂しい風景だったりする。たぶん、僕が憶えているのは、その風景を見つめていた時の自分自身の思い、なのだろう。

アンラッキーパンチ

昨日は、昼間のうちに仕事を進めておいて、夕方から綱島のPOINTWEATHERへ。旅音の林さんご一家にお誘いいただいた、旅人たちの飲み会に参加してきた。林さんの息子さんのチビオト君(もうすぐ一歳)も来ていて、ぷくぷくした笑顔でみんなに愛嬌を振りまいていた。

飲み会に集まったのは、みなさん一風変わった経歴の持ち主ばかりだったのだが、特にすごいなあと思ったのは、今も現役で活動中のキックボクサーの方。数年前に二年間ほどタイでムエタイの修業をしていたそうなのだが、現地でムエタイの試合に出た時、試合の賭博に絡んでいるらしいマフィアっぽい男が、試合前の彼の背中に銃を突きつけて、「わかってるな? 負けろよ!」と脅してきたのだという。何だそれは‥‥(怖)。

そんな風に脅された彼は、言われた通り負けようかどうしようかと考えながらリングに上がったところ、うっかりいいパンチが相手にヒット。で、「このまま倒しちゃっていいのかな‥‥」と躊躇しつつも、そのまま相手を倒してしまった。その後も、マフィアからは結局、何もされなかったそうなのだが。

世の中、いろんな人がいるものだ。ほんとに。

両親の旅行熱

朝、実家の母親からiPhoneにメール。何かと思ったら、これから父親と旅行に出かけるらしい。行き先は‥‥ボツワナのオカバンゴ・デルタ、らしい。いったいどこだ、それは‥‥(苦笑)。

ここ数年、実家の両親の海外旅行熱は、手がつけられないほど過熱している。かつては二人とも高校教師をしていて、旅とはとんと無縁の人間だったのだが‥‥。二人とももういい歳なので、足腰がしゃんとしてるうちにと、シャカリキになって出かけているふしがある。今年はたしか、年明けにタスマニアに行っていたし、夏にはイタリアのドロミテに行くつもりのようだ。やれやれ、こっちは取材費を捻出するのも一苦労なのに(苦笑)。

まあ、元気に旅を満喫してくれているなら、それでいいか。

ぱにゃにゃん

終日、部屋で仕事。原稿整理作業を淡々と進める。

昨日あたりから、仕事の合間の気晴らしに楽しませてもらっているのが、ラオス語。Twitterで@laos5というアカウントを知ってから、そのめくるめく半濁音ユルユルワールドに、すっかりはまってしまいつつある。

たとえば、「がんばる」は「ぱにゃにゃん」、「ありがとうございます」は「こぷちゃいらいらーい」、「なんで」は「ぺんにゃん」、「ゆっくりあせらないで」は「こいぺんこいぱい」。ダメだ、腹筋がよじれそう‥‥(笑)。

何か、勉強したくなってきた、ラオス語。ぱにゃにゃん。

風の旅行社「風通信」No.42

風の旅行社が年に三回刊行している無料の情報誌「風通信」に、「もうひとつの居場所、ラダック」と題した4ページのフォトエッセイを寄稿しました。表紙の写真と目次の写真も提供しています。エッセイは完全書き下ろし。写真は「ラダックの風息」に掲載していないものを中心に選んでいます。

風通信」は、お問い合わせ用メールフォーム、または電話(東京0120-987-553、大阪0120-987-803)で風の旅行社に申し込むと、無料で送ってもらえるそうです。数に限りがあるそうなので、お早めにどうぞ。発送開始時期は、4月22日(金)頃の予定です。