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鶴の群れ

キャンプ・デナリに滞在していた時、一人のガイドと親しくなった。彼の名はフリッツ。スイス人である彼は、二十年前にこの地にやってきて、ガイドとして働くようになった。家族は、国立公園の入口でB&Bを経営している。とても気さくな人で、日本人で一人だけストレニアス・グループでのトレッキングに参加していた僕に、「いいぞ、タカ! どんどん歩け! ゴーゴー!」と声をかけて焚き付けたりしていた。

ある日、「ポトラッチ」キャビンでの夕食の時、向かいの席にいたフリッツが僕に訊いた。

「タカ、君は何の仕事をしているんだ?」
「写真を撮ったり、文章を書いたりして、それを本にする仕事をしてるんだよ」
「そうか、フォトグラファーか。僕も一人、日本のフォトグラファーを知ってる。ミチオだ。ミチオは素晴らしいフォトグラファーだった。デナリで撮影していた時、彼はよくこのキャンプ・デナリに遊びに来ていたんだよ」

その時、クァ、クァ、という鳴き声が、遠くから幾重にも重なり合うようにして聴こえてきた。何だろう? みんな席を立って、「ポトラッチ」の外に出る。灰色の空の彼方から、隊列を組んだ鳥のシルエットが近づいてくる。鶴だ。それも、十羽や二十羽どころではない。次から次へと隊列が集まってきて、キャンプ・デナリの真上で渦を巻くように、どんどん大きな群れになっていく。数百羽? いや、千羽以上はいたのではないだろうか。

「サンドヒル・クレーンだ。南の山脈が悪天候で越えられなくて、ねぐらを探してここに集まってきたんだろう。こんな大きな群れを見たのは、二十年ぶりだ‥‥」フリッツが呟いた。

ミチオ‥‥星野道夫さんも、原野で一人でキャンプを張っていた時、こんな鶴の群れを、じっと見上げたりしていたのだろうか。千羽を超える鶴たちは、クァ、クァ、と寂しげに鳴き交わしながら、やがて、北の稜線の彼方に消えた。

代官山蔦屋書店「トラベルコーヒートーク」出演のお知らせ

10月25日(木)午前10時から、代官山蔦屋書店の旅行書コーナーで開催される茶話会「トラベルコーヒートーク」第10弾に、ゲスト出演させていただくことになりました。少人数の集まりならではのフレンドリーな雰囲気で、ラダックのお話をざっくばらんにできればと思っています。

◎トラベルコーヒートーク第10弾 インドの中の小さなチベット~ラダックについて~

▼日時:10月25日(木)午前10時〜11時
▼場所:代官山蔦屋書店 2号館1階カフェスペース(地図
▼定員:約20名 ※席のご予約が必要となります
▼参加費:参加費は無料ですが、店内スターバックスにてドリンクを購入してご参加ください。
▼席のご予約方法:下記のいずれかの方法にてお申し込みいただけます。
・電話(03-3770-2525、営業時間:朝7時〜深夜2時)
・店頭(代官山蔦屋書店3号館1階レジカウンター)まで
「10月25日トラベルコーヒートークの席予約について」とお問い合わせくださいませ。
・Twitterにて「10月25日トラベルコーヒートーク参加します」と@DT_travelまでリプライをお送りください。
Facebookトラベルコーヒートークイベントページにて参加ボタンを押してください。
※定員を超えてしまった場合、立ち見になることをご了承ください。

フリマの支度

今日の午後は、家でまったり。今月末の27日(土)に鎌倉で開催されるフリマ「旅人バザール」に出店者として参加することになったので、そこで出す品物の整理をしつつ、リストと値札をちまちまと作る。

フリマというか、こういう感じの物販は、ジュレーラダックの物販ブースの手伝いで何度か経験したことがあるが、書籍以外の品物を自分で用意して出すというのは初めて。しかも、もともと僕は旅先でおみやげをそんなに買わない方なので、品数も少ないし、手元にあるのは「ガラクタ?」と言いたくなるようなものばかり(苦笑)。弱った。

唯一、Tシャツは割と旅先で買う方なので、今まで買ってはみたもののほとんど着てないものを、何枚か出してみることにした。さあ、はたしてどうなることやら。

とりあえず、ほかの出店者のみなさんの商品はかなり期待できそうなので、おヒマな方はぜひ。

スライドトークイベント:冬のラダックと「氷の回廊」チャダル

東京・大崎にあるパタゴニア東京 ゲートシティ大崎店で、冬のラダック・ザンスカールをテーマにしたスライドトークイベントを開催することになりました。冬ならではのラダックの美しい風景や、ロサルやレー・ドスモチェをはじめとする冬の祭り、凍結したザンスカール川の上を旅するチャダル・トレックなどについて、現地で撮影した写真をふんだんに見せながらお話しします。

このトークイベント、入場は無料ですが、設営の関係で事前予約が必要です。事前に主催の風の旅行社(0120-987-553/info@kaze-travel.co.jp)までご連絡ください。会場のキャパが約80名と、僕にしては分不相応に大きいので(苦笑)、よろしくお願いします。

英語でスピーチ

この間のアラスカ旅行で、デナリ国立公園のキャンプ・デナリに滞在していた時のこと。

キャンプ・デナリに泊まる人のほとんどは、昼の間、ロッジのガイドとともに周辺のハイキングに出かける。目的地はその時の状況によってさまざまだが、年配の人や体力に自信がない人向けの自然観察コース、一般の人向けのモデラート・コース、もうちょっと体力に自信がある人向けのストレニアス・コースがある。母をはじめとする日本人ツアーの参加者はみんなモデラート・コースだったのだが、僕はスピティの高地で増殖したヘモグロビンを持て余していたので(笑)、少人数のストレニアス・コースに参加させてもらっていた。

ハイキングから戻ってきて、ポトラッチと呼ばれる食堂のキャピンで夕食を食べた後、ハイキングの各グループの代表者が、その日の報告をする。どんなコースを歩いたか、どんな野生動物を見たか、どんな出来事があったか‥‥。基本的にはその日のガイドが報告を担当するのだが、たまに、参加者の中の一人が自ら報告をする場合もある。

滞在三日目のハイキングを終えてロッジに戻ってきた時、ガイドのマーサがいきなり僕に言った。

「タカ、今日の報告は、あなたがやりなさい。英語と日本語、両方でね!」

‥‥え? えぇ?!

数十人はいる宿泊客(もちろんほとんど外国人)の前で、僕が、英語でスピーチ?! しかも、夕食まで一時間半しかない‥‥。ここ最近の仕事でも感じたことがないほど、顔から血の気が引いていくのがわかった。

これまでのハイキングの報告では、ロッジのガイドはみんな、外国人特有のウィットの利いたノリで笑いを取りつつ、いい感じで話を進めていた。もちろん、僕にはそんな真似はとてもできないけど、「いやー、日本人なんで英語ダメなんっすよ」みたいな感じでお茶を濁して逃げたりもしたくない。なんとかせねば‥‥えらいことになった‥‥。

夕食後、ハイキングの各グループの報告が始まり、いよいよ僕の番が回ってきた。この日歩いたコースの説明から始めて、風が強くて尾根の上ではとても寒かったとか、おひるを食べた後にちょっと昼寝したとか、地リスを何度か見かけたとか、マーサがデナリの地質学的な成り立ちを教えてくれたとか‥‥。で、最後にこう付け足した。

「僕の個人的なハイライトは、小川を渡る時に飛び越えようとして失敗して、川に落っこちたことです‥‥」

場内、大笑い。その後もみんな寄ってきて、「君、川に落ちたのか! どれくらいこっぴどく落ちたんだ?」と声をかけてくる始末。こういうことを面白がるのは、どこの国の人も変わらないようだ。

アラスカくんだりで、身体を張って笑いを取ったみたいな感じになってしまった(苦笑)。