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トドメを刺される

最近、やたらめったら、忙しい。三月頃からずっと、余裕のない、せわしない日々が続いている。

原因はシンプルで、六月に出す新刊『インドの奥のヒマラヤへ ラダックを旅した十年間』の編集・校正作業と、例年この時期に繁忙期を迎える大学案件の取材(最近はすべてリモート取材だが)、それと今年から始まった、下北沢の本屋B&Bから業務委託されているトークイベントの企画・コーディネートの仕事(特に四月は自分自身が出演する側でもあった)が、全部集中してしまって、同時進行で進めなければならなかったからだ。

そのうちの一つ、『インドの奥のヒマラヤへ』の作業は、今日の午前中に色校のチェックを終えて、ようやく解脱した。今日は午後からリモート取材の予定が入っていたので、関係者の方々に無理を言って色校チェック作業を午前中に設定してもらい、終えると同時に自宅にトンボ返りして、サンドイッチをかじるのもそこそこに約1時間のリモート取材。昨日一昨日も合計4件の取材をこなしていたこともあって、今日の取材が終わった後は、本当に頭が朦朧とするくらいくたびれ果てていて、ベッドに仰向けになって、少し寝ようかと思っていた、のだが。

ピンポンピンポーン。

「こんにちはー。火災報知器の交換作業をしに伺いましたー」

かくして僕は、よれよれぼろぼろの状態で、スマホ片手に部屋の隅に座ったまま、見知らぬお兄さんたちが天井の火災報知器を交換するのを、3、40分ほども見守るはめになったのだった。

何というか、あまりにも見事なタイミングで、完全にトドメを刺されてしまった……。おつかれ、自分。

寄る年波

何だかんだで、僕もかれこれ半世紀かそこら生きてきていて、すっかりええ歳こいたおっさんである。

身体年齢はそこまでいってない(と思いたい)。腹がぽっこり出てたりもしてない。若い頃に運動してた分の若干の貯金と、ここ数年の自体重筋トレのおかげで、身体はまあまあ締まってるし、同年代ではそれなりに動ける方だと思う。

それでもまあ、寄る年波は、やはりひしひしと感じるのだ。たとえば、目とか、関節とか。

目はもともと若い頃からド近眼でずっとメガネを使ってるのだが、最近、本の校正で地図やキャプションの小さな文字を見分けるのが、結構難しくなってきた。だんだん老眼が入ってきてるのだろう。関節は、何年か前に左右の膝を撮影やらトレッキングやらの時に傷めて、今も、ちょっとした動作でも用心深く動かすようにしている。

で、最近は、肩だ。右肩の前側、奥の方にある細い筋が、動かし方によってひきつるように痛む。これはあれか、いわゆる四十肩か。いや、五十肩か。まあどっちでもいいけど。いろいろガタが来てるなあという感じだ。

髪の毛も、ボリュームは十分あるけど、それなりに白髪が増えてきたし。まあでも、人間、誰しもそういうものなのだろうな。

少しずつ近付いてくる黄昏時を感じながら、一日一日を生きていこうと思う。

焼肉の夢

何人かで連れ立って、焼肉を食べに行く、夢を見た。

どんな人たちとだったかはよく憶えていないが、初対面の人も混じっていたように思う。どんな焼肉を食べたのかもよく憶えていないが、会計の時に財布を開いたら、札が一枚も入ってなくて、カードも全部期限切れで、それでもまったく焦らず、しょうがないなあ、と笑ったことは憶えている。何がなんだかよくわからないが、楽しい夢だった。

考えてみると、いわゆる飲み会というものに、かれこれ一年以上、参加していない。原因はもちろんコロナ禍なのだが、去年の今頃は、まさかここまでトンデモな展開になるとは、想像もしていなかった。これからも、あと半年か一年は、ご無沙汰な状態が続くだろう。

それでも僕の場合、二人暮らしなので、まだ全然恵まれている方だとは思う。家で毎晩ごはんを食べながらいろんな話もできるし、適当なアテを作って二人で家飲みもできるし、用心深い対策をしてくれている近所の仲良しのお店で二人飲みもできる。おかげで、このご時世でも、普段からうまくストレスを解消して、メンタルを平静に保てている。誰かと一緒におしゃべりしながら食事をするというのは、思っていた以上に心を軽くするものなのだな、と思う。

一人暮らしだったりして飲み会に行くに行けない人は、ストレスの発散に苦労しているに違いない。大学生が年越しパーティーで集団感染とかいう話を聞くと、やれやれと思うと同時に、気持ちもわからんでもないとも思う。飲食店の方も、緊急事態宣言の影響で経営が本当に大変だと聞いている。このいまいましい状況が、早く過ぎ去ってくれるのを願うしかない。

お人好しからの卒業

いつのまにか年が明けて、2021年。今年の抱負を何か一つ挙げるとしたら……「お人好しからの卒業」といったところだろうか。

人から仕事的な頼みごとをされたら、その内容をきちんと吟味し、必要な労力に対して健全なスケジュールで正当な対価が得られるかを確認する。相手が知り合いだからだとか、何か大義名分があるからとか、そういう理由で「まあ、やってあげよう」とお人好しに引き受けないようにする。途中でヤバイと気付いたら、迷わずその話から降りるようにする。

裏を返せば、ここ数年、そういう感じで何度も嫌な思いをさせられてきた、という事実がある。いいかげん学習しろよ自分、と我ながら呆れるくらい。

仕事的なものごとに対して、もっとドライになろう。本当に信頼できる人たちとだけ、正当な対価をやりとりできる仕事をしよう。自分でやりたい仕事は、自分で企画を立てて、自分の手で実行しよう。

そんなところかな。今年は、去年よりはましな一年になりますように。

「人生は二度とない」


キネカ大森で開催中のインディアン・ムービー・ウィーク2020・リターンズで一番楽しみにしていたのは、2011年の公開作「人生は二度とない」。リティク・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオールの三人が主演を務め、カトリーナ・カイフやカルキ・ケクランも出るという、スペインを舞台にしたロード・ムービー。監督はファルハーンの姉で後の「ガリー・ボーイ」の監督でもある、ゾーヤー・アクタル。この顔ぶれで面白くないわけがない、と、2021年元旦の映画初めに観に行ったのだった。

親の建設会社に勤めるカビールは、インテリアデザイナーの婚約者ナターシャとの結婚の前に、独身最後の旅行に男友達とスペインへ出かけようと計画する。誘ったのは、学生時代からの二人の親友、ロンドンで株式ディーラーとして仕事漬けの日々を送るアルジュンと、デリーで広告コピーライターをしているちゃらんぽらんなイムラン。些細な喧嘩をしながらも始まった、車でスペインを巡る3週間の旅。それぞれ打ち明けられない悩みや葛藤を密かに抱える3人が、出会い、別れ、経験し、決意したものとは……。

期待通りというか、期待以上に、本当に面白かった。旅という行為のポジティブな面を、全面的に肯定して描いてくれているのが、とても清々しい。スキューバダイビング、スカイダイビング、ブニョールのトマト祭り、パンプローナの牛追い祭りといった大がかりなイベントを組み込み、旅の過程で3人がそれぞれの葛藤を乗り越えて成長していくさまを描いていながら、物語には無理なところも破綻もなく、ある程度のおとぎ話的展開はあれど、とても自然だ。主役の3人をはじめとする登場人物たちも、愛情を込めてコミカルに描き分けられている。今まで、ロード・ムービーはそれなりにたくさん観てきたが、それらの中でも出色の出来だ。

現実の旅なんて、そんな良いことばかりじゃないよ、と言いたくなる人もいるだろうし、その気持ちもとてもよくわかる気もする。でも、この作品に関しては、これでいいんじゃないかな、とも思う。僕自身、旅の中で「こんな経験は人生の中で二度とできない!」という思いを、たくさんさせてもらってきたから。こういうロード・ムービーを観て、「自分も旅に出てみようかな」と思い立つ人がいたとしたら、それはきっと、良い一歩だと思う。