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もの忘れ

いろんなことを、よく忘れる。もの忘れというか、そもそもぼんやりしてるというか。

あることを、やらねば、と思っても、その後何か別のことに気を取られると、すこんと忘れてしまったりする。晩飯に作るカレーの材料を買いに行って、意気揚々と引き揚げようとしたら、よりによってカレー粉だけ買い忘れてて、スーパーに引き返したりとか。

そういう他愛のないことならまだいいのだが、台所の火の始末とか、取材に出かける前の支度とか、そういうことでやらかすとシャレにならないので、最近はかなり用心深く予防線を張るようにしている。取材の場合だと、朝起きて出発する時間から現地到着までの乗り継ぎ情報を紙に全部メモして、目立つ場所に置いておくとか。こんなもんで大丈夫だろと油断してると、だいたいろくでもないことをやらかす。

慎重派というより、もうすっかりおっさんの領域であります。

関口良雄「昔日の客」

sekijitsuずいぶん前に買った本だ。仕事机の脇にあるスライド書棚の一番目立つ場所に挿しておいたのだが、ずっと手に取れないでいた。億劫というのとは、むしろ正反対の気持。せわしい仕事の合間とか、悩みごとで心がざわざわしてる時とかに読んでしまいたくなかった。穏やかな気持でいられる日に、他の何にも邪魔されずに静かにページをめくりたかった、とっておきの本たちの中の一冊だった。

昔日の客」は、かつて東京・大森にあった古書店、山王書房の店主、関口良雄さんが生前に書き溜めていた随筆をまとめた本だ。長らく絶版になっていたこの本を2010年に夏葉社の島田さんが復刻させたことは、当時かなり話題になった。生前の関口さんは尾崎一雄さん、上林暁さん、野呂邦暢さんといった名だたる文学者たちとも深い交流を持っていたそうで、実家が近くにあった沢木耕太郎さんも、若い頃によく山王書房に足を運んでいたと「バーボン・ストリート」に書いている。

この「昔日の客」では、数々の文学者の方々との交流はもちろん、お店にふらっと現れては思い思いの古本を買っていくお客さんたちの横顔や、遠い昔の父親の死や淡い恋の記憶などが、控えめでありながら深く、時にユーモアを湛えた文体で綴られている。何よりも、主役は「本」なのだ。本がすべての人々を、どこかで結びつけている。登場する一人ひとりの、そして関口さん自身の本に対する愛着には、読みながら幾度も胸に込み上げるものがあった。

本は、時に人と人とを出会わせたり、届かないはずの思いを伝えたり、ちょこっと人生を変えたりする。幸運にも僕は、本を作るという仕事に携わらせてもらっている。あらためて誇りに思うし、これからも気を引き締めて、一冊々々、少しでもいい本を作る努力を積み重ねていかなければ、とも思う。

願わくば、往時の山王書房を訪れてみたかった。

耽読

降ったり止んだりの雨の音を聞きながら、一日中、ソファにごろんと横になって、本を読み耽った。

こんな風にして、どっぷりと本を読み続けたのは、いつ以来だろう。書き仕事にも編集仕事にも煩わされずに本に集中できる時間というのは、なかなか取れない。いや、読もうと思えば読める時間はあったのだろうが、僕自身にそういう心の余裕がなかったのだろう。

ただただ、愉しかった。文字を追い、想像をめぐらせ、そこから逸れて物思いに耽り、またページの上に戻って‥‥。ここ半年、書きに書きまくってぱっさぱさになっていた心に、一つひとつの言葉が沁み込んでいく。

今の自分に一番必要だったのは、こんな風にして本を読むことだったのかと、今さら気付かされた。

雨の日とコーヒー

朝からずっと、雨。弱まったと思ったら、またバシャバシャと強まったり。昨日までに書き上げた原稿を推敲して納品して、今作ってる本に関係するこまごました準備を進める。

こんな天気だと気分もふさいでしまいがちだけど、雨の日に部屋でコーヒーをいれるのは好きだ。うるおった空気に香りが漂って、飲むと身体をしゃんと温めてくれる。あえてラジオもつけずに、窓を叩く雨音を聞きながら。

忙しくても、悩みごとがあっても、そういうひとときを愉しめる余裕みたいなものは、いつも持てるようになりたいなと思う。まあ、なかなかそうはいかないけど。

タマネギづくし

終日、部屋で仕事。むしっとした天気で身体もしゃんとしないので、晩飯にはスタミナがつきそうなものをと思って、豚肉とタマネギのしょうが焼を作る。おいしくできた。

そういえば、昨日の晩飯は、オニオンスープにタマネギとツナのサラダだった。二日連続で、主食がほぼタマネギ。これだけ毎日食べ続けてても、先月実家から送られてきたタマネギ、まだたくさんある。素性の良い、うまいタマネギだし、日陰に置いとけば日保ちするから、まあ大丈夫なんだけど。

硫化アリルに涙を流しながら包丁でタマネギを刻み続ける日々は、もうしばらく続きそうだ。