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岸辺へ

昼、荻窪で打ち合わせ。来年の春頃を目指して、ある本を新たな形で作ることになった。

打ち合わせを終え、陽射しが照りつける線路沿いの道を歩きながら、ああ、僕はついに、岸辺に辿り着いたのだ、と思う。この本の原型となるアイデアを思い立ったのは約三年前。それからの日々はまるで、対岸の気配すら感じられない、濃霧のたちこめる海に小舟で漕ぎ出したようなものだった。いくつもの出版社から門前払いされたり、適当にあしらわれたり、反応さえしてもらえなかったり。いったい何度、悔しい思いをしただろう。それでもあきらめられずに、僕はもがき続けてきた。

それから時間が経つうちに、この企画を取り巻く状況も少しずつ変わってきた。アイデアと戦略を軌道修正し、人のつながりにも助けてもらって、ようやく、本当にようやく、僕は今、岸辺に辿り着いたのだ。最終的に作ることになったこの本は、今にして思えば、運命としか言いようがないというか、作るべくして作ることになった本だと思う。

これは僕にとって、ある意味、一番大切な本になるかもしれない。

旅の重石

終日、部屋で仕事。取引先や、取材でお世話になるインドの知人に連絡をしつつ、自分用の行動予定表や取材で必要な資料を準備する。木曜日くらいまでにすべて整えられれば、まあ、大丈夫だろう。

夕方、晩ごはんを食べに外へ。歩道をぶらぶら歩きながら、これから始まる長い旅と、そこでいくつも待ち受けている取材のことを考えると、ずしっ、と心が重くなる。憂鬱というわけではないけれど、一つひとつの仕事のプレッシャーがのしかかってくるというか。いつから僕は、こんな風に重石を感じながら、旅の支度をするようになったのだろう。

まあそれも、出発の日の朝に、バッグを背負ってシューズを履いた瞬間に、ふっと軽くなるのだろうけど。旅に出てしまえば、きっと、いろんな意味で自由になれる。

油断大敵

午前中から、矢継ぎ早の電話やメールで、ばったばた。半信半疑だった件、やはり油断大敵だった(苦笑)。これはもう、デリーに着いてイミグレを通過するまで安心できそうにないなあ‥‥。

午後から外出して、新橋で打ち合わせ。今年の夏、ラダックではいろんな取材に取り組むのだが、今日打ち合わせた分も含め、大小さまざまな記事の形で世の中に送り出すことができそうだ。目標が具体化すると、やはり俄然やる気が出てくる。

‥‥とはいえ、まだ油断大敵なのである(苦笑)。いろいろうまくいきますように。

頭痛のタネ

先週末に書いた頭痛と体調不良は、書いたとおり翌朝にはけろっと治ってしまった。が、それとは別に、未だに「頭痛のタネ」になっているのは、来週末から出発する予定のインド取材だ。

今回のインド滞在では、その最初の2週間に、今年2月末から行く予定だったはずがスタッフの負傷のためにキャンセルされた取材が再度組み込まれている。この取材では僕は裏方スタッフの一人としてコーディネートの仕事をしているのだが、出発までにしておかなければならない事前手配が、未だに全然終わっていない。原因の9割くらいは、ぶっちゃけインド政府のせいなのだが‥‥。そうしたしわ寄せが今になって全部こっちに来て、出発までに準備を終えられるのか、そもそも出発できるのか、という、ばったばたの事態になっている。僕の一存では、動くに動けない状態なのだ。

まあ、7月中旬からはラダックで、個人の立場でのいくつかの取材やツアーガイドの仕事が始まるので、いずれにしてもインドに行くことは間違いないのだが、ほんと、早くいろいろ決めさせてほしい、というのが正直なところではある。やれやれ。

同じ場所へ

午後、銀座のキヤノンギャラリーで開催中の大塚雅貴さんの写真展「サハラの風」へ。大塚さんご自身によるギャラリートークを拝聴させていただく。

大塚さんはサハラ砂漠、特に近年はニジェールの辺境の地に暮らす人々の姿を撮影している。砂漠の中に舞う鮮やかな民族衣装と、輝く黒い瞳。同じ場所に何度も通うことで少しずつ培った信頼関係があればこそ撮ることのできた、素晴らしい作品の数々だった。

世界各地を撮る写真家には、大きく分けて、移動をくりかえしながら新鮮な感動を探し続けるタイプの人と、同じ場所に何度も通って求めるテーマを深掘りし続けるタイプの人がいると思う。大塚さんは間違いなく後者だし、僕もおそらくそうだ。もちろん、同じ場所といっても広いから、その中でいろいろ動き回ったりあれこれ試したりするのだけれど。

僕の場合、ラダックで深掘りし続けているうちに、だんだん自分自身の個性とかこだわりとかが消えて透明になっていくような感覚を感じていた。そこに居合わせて、あるがままを撮り、書く、そんな感じ。人それぞれ、いろんなアプローチがあるのは当然だし、それぞれ違ってるからこそ面白いのだけれど。

そんなわけで、今月末から僕は、また同じ場所へ戻ることになる(笑)。