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見本誌出来

朝、宅配便で「撮り・旅!」の見本誌が届いた。

慎重に梱包を解き、本を一冊取り出す。カバーと帯、クラフト紙の表紙、微塗工紙の本文紙、肝心の印刷の具合を確かめながら、1枚ずつページをめくっていく。特に問題はないようだ。よかった。ほっとした。うれしいというより、とにかくほっとした。

ほっとしたら、力が抜けた。それから一日、何もする気が起きず、腑抜けのようになって過ごした。終わった。終わったんだな。

島田潤一郎「あしたから出版社」

あしたから出版社吉祥寺のひとり出版社、夏葉社を経営する島田潤一郎さん自身による初の著書「あしたから出版社」。島田さんの文章は今はもうなくなってしまったブログで何度か拝読していて、その飾らないユーモラスな文体がすごくいいなあと思っていたので、この本も読むのをとても楽しみにしていた。で、自分の本が校了した後の帰り道、三鷹の啓文堂書店でこの本を買い、その日のうちに一気に読んだ。

バイトや派遣の仕事を転々としながら作家を目指して悪戦苦闘していた島田さんは、これ以上ないほど仲のよかった従兄の死をきっかけに、残された叔父や叔母の心に寄り添うような本を作りたいと、一人で出版社を立ち上げる。自分自身のためにもがいていた人生から、大切な人のために本を作ろうとする人生へ。訥々と語られる会社の設立から現在に至るまでの日々を読んでいると、夏葉社の本がなぜこれほど多くの読者から支持されているのか、なぜ多くの出版人や書店からの共感を集めているのかが、よくわかる。やっぱり本は、誰かのためにこそ作られるべきものだから。

僕は出版社を営んでいるわけではないけれど、組織に属さず一人で本づくりの仕事に携わっている者として、この「あしたから出版社」に書かれている島田さんの言葉は、もう、どれもこれも身に沁みて、わかりすぎるくらいわかってしまって、とても他人事とは思えなかった。僕自身、二十代の頃は出版の世界で何者にもなれず、どん詰まりの日々を送りながら、地べたを這いずるようにして生きていたから。

この本は、島田さんがまえがきで書かれているように、出版の世界に限らず、社会の中でいろんな生き方を模索している人にも通じる内容だと思う。でも、本にまつわる仕事に携わっている人にとっては、ひときわ強く心に刺さる言葉がたくさん詰まっている本でもある。

読者に届けるべき本は、必ず、いい本でなければいけない。そうでないと、全部、意味がない。

ぼくは、そういう、あこがれるような本をつくりたいのである。

ただ、便利なだけではなく、読むと得をするというようなものでもない。もちろん、だれかを打ち負かすための根拠になるようなものでもない。

焦がれるもの。思うもの。胸に抱いて、持ち帰りたいようなもの。

本づくりに携わる人たちの中で、こうした言葉を読んで、励まされたり、逆にくやしさを感じたりする人は、きっと多いんじゃないかと思う。まったく何も響かないという人がいたとしたら、たぶん、何かが決定的にズレている。

ほんのささやかなものかもしれないけれど、僕たちがやっている仕事には、きっと何かの意味がある。そんな勇気を与えてもらった一冊だった。

七夕に校了

昼、千駄ヶ谷にあるデザイナーさんの事務所で、「撮り・旅!」の打ち合わせ。一部分だけ再度出してもらった色校と、インクジェット出力した残りのページの色味などを確認。大きな問題もなく、この後は印刷会社さんにお任せすることになる。

「‥‥これで、校了‥‥ですよね?」と僕。
「そうですよ、もちろん」

何だか、最後はちょっとあっけなくて、すぐには実感が湧いてこなかった。打ち合わせを終えた後、一人で新宿まで歩き、喫茶店でアイスコーヒーをすすり、本屋をうろうろ。そうするうち、少しずつ、じわじわと感じるようになった。ああ、終わったんだなあ、また一冊、と。

三鷹に戻り、駅の近くで本を買い、喫茶店で3分の1読み、居酒屋に場所を移して3分の1読む。本を読みつつ、一人酒。何だかいろいろたがが外れた感じだが、悪くない。そういえば、今日は七夕か。

作戦会議

午後、「撮り・旅!」の色校の入った包みを抱えて、千駄ヶ谷にあるデザイナーさんの事務所へ。中に入ると、打ち合わせスペースには出版社の担当編集さんの他、印刷所の担当者の方々が四人も。デザイナーさんたちを加え、計八人での打ち合わせ。

今日の打ち合わせは、デザイナーさんからの提案。単に色校に個別の写真への指示をつけて戻すより、全員で集まって意見の擦り合わせをして、この後の印刷にあたっての方針を確認しておいた方がより確実ということで、こういう場を設けることになった。面付けした色校を広げたワーキングテーブルを大勢で囲んで、ここはどうだ、あそこはどうする、と話し合っていると、何だかラスボスとの最終決戦に臨む作戦会議をしてるような気分になった。脳内BGMはおなじみのこれ(笑)。

それにしても、ここに至るまで、若干の余裕を持たせたスケジュールにしておいて、本当に助かった。来週明けにもう一度、一部のページの色校を出し直して確認することになったが、それで問題なければ、今度こそ校了だ。いよいよ、本ができあがる。

気を抜けない

午前中に、デザイナーさんから今作ってる本の色校正が入った大きな包みが届く。リビングの机の上で、面付けされた状態の大きな色校を広げ、各写真家さんから送られてきた指示を参考に、写真を一枚々々チェックしていく。

今回の「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」は、ほとんどのページに写真が使われていて、それぞれのテイストも千差万別なので、印刷にはことのほか気を遣う。本当はもう一回ダメ押しで簡易色校正を出したいところなのだが、諸事情(時間とか、予算とか)で難しいと言われてしまったので、デザイナーさんと一緒に印刷所に行って、最後の最後に印刷の現場で確認させてもらうしかないかな、と考えている。

ここで気を抜いたら、今までの苦労がすべて水の泡になってしまう。少しでもいい本を作るために、やらねば。