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本をつくる旅

昨日は、「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」の打ち上げだった。綱島のポイントウェザーさんを定休日にお借りして、午後の3時から始めて、途中で参加者が入れ替わりつつも、11時くらいまで。旅の話、写真の話、他愛のない話。初対面の人同士も多かっただろうに、そんなことをまったく感じさせない、とてもなごやかな宴だった。

他の方々と別れ、帰りの電車で一人になる。バッグの中には、版元の編集者さんが持ってきてくれた読者の方からの手紙が入っている。この本の企画を思い立ってからの約二年間、悩み、苦しみ、もがき続けた日々に、ようやく、ひと区切りついたような気がした。今の自分のこの気持は、申し訳ないけど、たぶん他の誰にもわからないだろう、と思った。

一冊の本をつくるのも、旅のようなものなのだな。

人と人をつなぐ

編集者という仕事に求められるいくつかの役割のうち、たぶん一番大切なのは、人と人とをつなぐ役割なのではないかと思う。

たとえば、一人の作家が小説を書いたとすると、編集者は彼を、デザイナーやイラストレーター、校閲担当者、印刷担当者、書店員、そして読者と、彼自身の作品を通じてさまざまな人とつなげていくための役割を担う。著者が複数名の場合や、雑誌などの編集者の場合は、もっと多くの人々とのつながりを担うことになる。

しばらく前のことになるが、何人かの友達と飲んでいた時、そのうちの一人に「ヤマタカさんがいなかったら、僕らがこうして会って飲んだりするようにもならなかったんですよね」と言われた。確かに、その時の彼らと僕は、それぞれ取材を通じて知り合って友達になり、それで彼ら同士もつながっていったのだった。僕自身は、普段はまったく社交的ではなくて、どちらかというと一人でふらふら旅でもしてるのが性に合う方なんだけど。

先日上梓した「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」の制作で、僕は一人の編集者として、その人と人とをつなぐという役割を、文字通りめいっぱい要求されることになった。何しろ、大半の写真家の方々は、名前は知っていても会ったことはなく、用意できる謝礼も相場よりずっと少ない。僕にできたのは、すべての事情をありのままに伝えて、自分自身の暑苦しいくらいの思いを真正面から届けることでしかなかった。

でも、たぶんそれは、正しかったのだと思う。たくさんの人のつながりから生まれてきた、一冊の本。それは、きっと幸せな本だと思う。

幸せな時間

昨日の夜は、代官山蔦屋書店で「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」刊行記念のトークイベントだった。前日の朝までは定員の半分くらいの予約状況だったのに、そこから急に申し込みが殺到して、結局、本番ではぎっしり満席。大勢の人の前に出るのはひさしぶりだったので緊張したが、一緒に出演してくださった写真家の三井昌志さんと中田浩資さんのおかげで、会場もかなり盛り上がっていたように思う。自分自身のトークに関しては、いつものごとく、頭の中がまっしろになっていたので、あまりよく憶えてないのだが(苦笑)。

イベントの最中は周囲を見回す余裕も全然なかったけれど、終了後、お客さんたちが買ったばかりの本を両手で胸に抱えて、頬を紅潮させて目を輝かせながら会場を後にするのを見ていると、何というか、ぐっとくるものがあった。何もないまったくのゼロの状態から企画を立ち上げ、苦労して、苦労して、苦労して‥‥何度も心をへし折られそうになって。それでも、みんなから預かった写真を、言葉を、思いを守り抜くと決めて、意固地なまでに信念を通して。そうして生まれてきた本が、自分の目の前で、読者の手に渡っていく。一人の編集者として、書き手として、撮り手として、こんな幸せな時間を味わえることが、一生のうちに何度あるだろうか。こんな時間を味わえる人が、この世界にほかに何人いるだろうか。

僕は本当に、たまたま巡り合わせがよかったのだ。その巡り合わせを、大事にしていかなければ、と思う。

「撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち」

「撮り・旅!」撮り・旅! 地球を撮り歩く旅人たち
編者:山本高樹
定価:本体1600円+税
発行:ダイヤモンド・ビッグ社
B5判128ページ(オールカラー)
ISBN978-4478046159

「旅」と「写真」という切っても切れない関係にあるものをテーマにした新しい本が、まもなく発売になります。写真を撮らなくても旅はできるかもしれないけれど、旅の中で風景や人々や出来事に出会い、心がふわっと揺れた時にシャッターを切ってゆくと、その人の旅はもっと豊かで深いものになります。今やすっかり手垢のついた「絶景」という言葉などではとうてい括ることのできない、旅人たちが目にしてきた世界のありのままの姿、彼らの「旅」そのものが、凝縮された一冊です。

見本誌出来

朝、宅配便で「撮り・旅!」の見本誌が届いた。

慎重に梱包を解き、本を一冊取り出す。カバーと帯、クラフト紙の表紙、微塗工紙の本文紙、肝心の印刷の具合を確かめながら、1枚ずつページをめくっていく。特に問題はないようだ。よかった。ほっとした。うれしいというより、とにかくほっとした。

ほっとしたら、力が抜けた。それから一日、何もする気が起きず、腑抜けのようになって過ごした。終わった。終わったんだな。