Tag: Editing

旅は人生のすべてではない

昨日はいろいろ、詰め込みすぎて、がんばりすぎた。午前中のうちに税務署で確定申告を終わらせ、午後は自宅で連絡業務に振り回され、吉祥寺で名刺を追加発注し、夕方から高円寺で「旅の本作り」をテーマにしたトークイベント。終了後から深夜過ぎまで、高円寺のバーで「旅人BAR」のホスト役。どうにかすべて無事に終えられて、ほっとした。

昨日のトークイベントやその後のBARに来ていた人の多くは、本当に熱心で、自分の旅にまつわる本を作りたいと真剣に考えている人たちだった。実際にしっかり作り込んだ企画書や資料を持参して、僕に意見を求めてきた方も何組もいた。そういう真剣な思いを持っている人たちが世の中にまだこんなにいるということが、新鮮でもあったし、嬉しくもあった。

自分の旅を形にしたい。思いを、感動を人に伝えたい。そう考えるのは、旅が好きな人にとって自然なことだと思う。ただ、旅を本という形にすることが自分にとって最大の目標で、それがすべてと思い詰めすぎるのは、あまりよくないかもしれない、とも思う。

旅は人生のすべてではない。人間にとって旅よりも大切なものは、たぶんこの世界にたくさんある。そういうものの見方に気づいて、自分の考えを客観的に見直すからこそ、あらためて気づける旅の価値や魅力もあるはずだ。

いろいろなものの価値を相対的に感じ取り、俯瞰的に見直すこと。僕自身、考え込みすぎて狭い見方に陥らないように、そう心がけようと思っている。

初期化して再構築

ここ数年、仕事の隙間を縫うようにして、アラスカに少しずつ通っている。あと3週間ほどしたらまた、彼の地へと飛ぶ予定だ。

「ラダックの次は、アラスカをやるんですか?」という風によく訊かれる。そうである部分もなくはないけど、その通りとも言えない。まず、ラダックとはこれからも、ライフワークというか、自分の担うべき役割を果たすために、ずっと関わり続けるつもりでいる。アラスカでの取材は、ラダックとは別の基軸に位置付けて、並行する形で取り組んでいる。ただ、ラダックでこれまでやってきたやり方と、アラスカでこれからやろうとしているやり方とは、自分の中では、かなり違う。まったく別のアプローチを試みていると言ってもいいかもしれない。

その違いは、目先のテクニックやノウハウではなく……自分以外の他者、周囲の世界そのものに対する、向き合い方や考え方の違いなのだと思う。ラダックでの日々も含めて、今まで生きてきた中で積み重ねてきたものを、ばっさりと全部初期化して、ゼロから再構築していくような……。そうして初期化して再構築した結果が、これまでの自分と全然違うものになるのか、それとも同じ答えに行き着くのか、まだわからない。本当に答えが出るのかどうかも、わからない。再構築しきれずに、ボロボロと崩れてしまうのかもしれない。

答えの見えない、闇の中へ。怖いし、不安だし、迷いもある。でも、やっぱり、進むしかないんだろうな。

地味で単調でしんどい仕事

冷たいみぞれが降り続いた日。終日、部屋にこもって、ロングインタビューの原稿を書く。

最近、ライターが一部でタレント化・読モ化しつつあるという話をWeb上でいくつか読んだのだが、ライターになることに憧れているという人は、今の世の中に、それなりにいるのだろうか。

ライターや編集者の仕事は、ほとんどの場合、地味で単調でしんどい仕事だ。その上、昔よりも報酬の相場は下がっている。ライター志望の人が憧れるのは、たぶん、一部の人が前面に出している、タレント的・読モ的な側面なのだろう。僕はそういうのは、正直言って苦手だ。一人で陰でコツコツ書いている方がいい。

僕の場合、二十代初めの頃、長旅の旅費稼ぎのために始めた出版社での編集アシスタントの仕事が、思いのほか性に合っていたから、今の道を辿る結果になったのだと思う。当時のバイトも、地味で単調でしんどかった。僕はたぶん、相当に物好きな部類の人間なのだろう。

そんなわけで、今日も一日、地味で単調でしんどくて、それでも好きな仕事を、がんばってみた。

相応の金額

出版不況もここまで長引く(というか、もう回復はしないと思う)と、何かにつけて辛気臭い話が多くなる。予算が減るだの、人手を減らすだの、まあ、いろいろ。

雑誌の世界は、一部の大手出版社を除けば、しばらく前から内製化が進んでいる。ライターやカメラマンの代わりに、編集者が自ら取材に行ってデジカメで写真も撮る、とか。確かにそうすれば予算は節約できるのだが、編集者にかかる負担は数倍になり、文章や写真の品質も維持できなくなる。結果、編集部は疲弊し、雑誌の品質も売上も落ち、さらに予算が削られ……という悪循環を辿っている雑誌は、今の世の中、少なくないと思う。旅行用ガイドブックなど、ライターやカメラマンが複数関わる書籍も、たぶん似たような状況だろう。

開高健さんが生前にエッセイで、「いいものを作るのに必要なのは、たっぷりの時間と手間と、必要なだけの金だ」という意味のことを書いていたと記憶しているのだけれど、確かに、本や雑誌を作るのに、お金はとても重要だ。湯水のように注ぎ込めばいいわけではないが、必要なところに適正な金額を使えないと、関わる人々の心意気だけではどうにもできない状況が必ず生じる。必要とされるスキルを持っているスタッフには、それ相応の金額を。世の中、そういうバランス感覚に戻ってほしいな、と思う。

「地球の歩き方 タイ 2017〜2018」

今回でかれこれ4年目になりますが、撮影とデータ取材の一部を担当させていただいた「地球の歩き方 タイ 2017〜2018」が発売されました。

今年の改訂版では、巻頭のカラーグラビアでタイ北部の街、チェンラーイ、チェンマイ、ラムプーン、ラムパーンを寺院を中心にして6ページほど新規で撮影(昨年まで僕が担当していたカラーグラビアのスコータイとアユタヤーの遺跡の写真と紹介テキストは、今回は別の方が担当しています)。その他には、本全体の巻頭トビラとタイ北部の章トビラの写真も担当しています。

タイへの旅を考えている方はもちろん、そうでもない方も(笑)、書店で見かけたら、お手に取ってみていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。