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ガイドブックなんて

昨夜の飲み会の時のこと。隣の席にいた数人の中年のお客さんが、旅についての話をしているのが聞こえてきた。

「ガイドブックなんて、旅行の前に一応買うけど、結局、役に立たないよね。現地で情報収集するのが一番だよ!」

‥‥まあ、そうなのかもしれないな(苦笑)。確かに旅行の時は、現地でしっかり情報収集するのが一番確実だし、大事だと思う。ガイドブックに頼りすぎると、現地の事情が変わっていた時、思わぬ痛い目に遭う。僕自身、旅をする時はガイドブックにはあまり頼らず、出たとこ勝負で決めるタイプだし。それは否定しない。

ガイドブックというのは、世間ではこんな風に「ガイドブックなんて‥‥」と言われるような類の本なのだろう。読んだ人が「感動しました!」と涙を流すわけでもないし、諸事情により掲載していない情報があれば「載っていないじゃないか!」と叩かれ、時間の経過とともに現地の事情が変わったら「間違ってるじゃないか!」と怒られる。それが、ガイドブックの宿命なのかもしれない。

でも、今回のラダックのガイドブックは、そんなことも全部ひっくるめた上でも「いい本だな」と思ってもらえるように、心血を注いで作ったつもり。現地での取材に協力してくれたたくさんの人たちや、日本で制作をサポートしてくれた大勢の関係者の方々に、恥じない出来にはなっていると思う。

書店で手に取って、ぱらぱらとでもめくってもらえれば、きっと伝わるはず。僕たちの思いが。

通過点

今日も一日、家にいられた。メールでの連絡業務や明日の取材の準備などを、ぼちぼちと。夜はひさびさに本腰を入れて自炊。納豆入り豚キムチをどっさり作って、炊きたてごはんと一緒にもりもり食べた。

正気の沙汰とは思えないほど忙しかった先月に比べると、さすがに最近は仕事のペースが落ちついてきた。本を一冊作り終えて、やっとこれからのことに考えを巡らせる余裕が出てきたように思う。自分がやりたいこと。やるべきこと。やってほしいと言われていること。いろいろと。

すべて終わったからこそ言えるけど、今回のラダックガイドブックは、僕にとってはゴールではなく、いくつかある通過点の一つだ。今、このタイミングでこの本を作ったことには、狙いも理由もあるし、それは間違っていないと思う。この本を作ったからこそ、その次に活かせるものもあるし。

次の通過点は‥‥タイミングはまだ見定めきれていないけど、それがどこにあるのかは、ほぼわかっている。その通過点まで、いつ、どうやって辿り着くか。焦らず、じっくり、考えたいと思う。

虚脱感

昼、赤坂で打ち合わせ。連休中にチェックを終えたラダックのガイドブックの色校を、編集者さんに渡す。これで、僕がこの本の制作で関わる作業はすべて終わり。明日には編集者さんのところでも校了して、週末には下版。その後は印刷工程に入る。

いよいよ、というか。やっとここまで来た、というか。もうこれ以上、何も作業しなくていい、というか。もうこれ以上、あの本を作り続けることはできないのか、というか。

正直言って、達成感や充実感よりも、今は虚脱感の方が強いような気がする。それくらいこの本は、僕にとって大きな仕事だった。準備段階から費やしてきた時間も、取材や執筆に注ぎ込んだ労力も、あらんかぎり振り絞った自分の能力も。ふりかえってみても、これに匹敵する大きな仕事は、「ラダックの風息」くらいしかない。それだけに、制作が終わってしまったことに、ちょっと寂しさを感じる。

まあ、来週末に見本誌が届いたら、達成感や充実感のようなものが湧いてくるのかもしれないな。自分の子供が生まれてくる時のように。

進行管理という仕事

本や雑誌の編集者というと、企画を練ったり、著者やデザイナーと打ち合わせをしたり、実際の編集作業で手を動かしたり‥‥と、ものづくり的な仕事というイメージを持っている人が多いと思う。でも、編集者には、そういった作業と同じくらい大切な仕事がある。それは、進行管理。企画のスタートから下版して印刷工程に入るまで、各工程のスタッフのスケジュールを管理して、制作が破綻なく進むようにする仕事だ。

この進行管理が甘いと、作業が遅れて後へ後へとしわよせが来て、スタッフが想定外のタイミングで無茶な量の作業を強いられることになる。その結果、印刷した本や雑誌に大きなミスが残ってしまったり、ひどい場合は本自体の刊行が遅れてしまったりする。いつ出してもいいという本なら構わないが、ほとんどの場合、販売などの関係でそういうわけにはいかない。

進行が遅れる原因はいろいろある。作業のスタートそのものが遅すぎたり、作業量に比べて各工程に設定した作業時間の見込みが甘すぎたり、どこかの工程の作業が何らかの理由で大幅に長引いたり。こうしたことが起こると、とたんに全体の進行が滞ってしまう。進行の遅れを防ぐには、遅れている工程のスタッフにびしびし催促したり(あまりやりたくない)する前に、まず最初にスケジュールを設定する時に、各工程が無理なく回るようにスタッフ全員としっかり打ち合わせをして、制作途中でもちょくちょく確認しながら微調整をしていくことが大事だ。

大変な作業をしなければならないのなら、その分スタートを前倒しすることを考えるべきだし、前倒しする時間がないなら、臨時にでも人手を増やすことを考えるべき。時間も人手もないのなら、そもそもその体制でその企画をやるべきなのかというところから考える必要がある。

進行管理をしっかりやって、多少でもゆとりのあるスケジュールで制作を進められれば、掲載内容の急な差し替えや、スタッフの急病など、不測の事態が起こったとしても、それほど慌てずに対処できる。でも、進行管理とは、そういう安全面への配慮のためだけのものではない。ぎりぎりまで細部を煮詰め、ミスを減らし、品質を向上させるための作業に使う「余裕」を各工程が持てることが、進行管理の一番の目的だと思う。

猛烈に忙しくて進行が破綻してしまった‥‥と嘆く同業者が時々いるが、お気の毒と思う反面、もったいないなあ、とも思う。それだけ忙しいなら優秀な編集者なのだろうし、きっといい本や雑誌も作っているのだろうけど、その人が進行管理をきっちりできる状況にあれば、そこで生まれる「余裕」を使って、もっといい本や雑誌を作れたに違いないからだ。ほんと、もったいないと思う。

時代を先取るセンスとか、天才的な企画のヒラメキとか、読者の心をつかむ文才とか、そういった才能はあるに越したことはない。でも、進行管理をきっちりやるための几帳面さと誠実さは、すべての編集者にとって必要な能力だ。そしてその二つは、そんなに努力しなくても身につけられる能力でもある。きらめくような才能がなくても、その時々にやるべきことをコツコツと積み上げていけば、いい本を作ることはできる、と僕は思う。

雨音

午前中に、ラダックガイドブックの色校が届いた。おひるにラーメンを作って食べた後、じっくりと色校のチェックに取りかかる。

外は、雨。時折、かなり激しく降っている。集中力が必要な作業をする時は、テレビもラジオも何もつけないでいるのだが、しんとした中で色校のチェックをしていると、外から聞こえてくる雨音が、思いのほか心地いい。どんなBGMよりもリラックスできて、かつ集中もできる。

連休中にお出かけしてる人には悪いけど、いい感じで集中できて、作業もはかどった。あともう少し。