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中間地点

11時間か12時間、ひたすら眠り続けた。昼過ぎにようやく寝床から起き上がると、身体の後ろ半分が、バッキバキに凝っていて痛い。シャワーで身体を温め、コーヒーをすすると、少しずつ人心地がついてくる。

昨日の取材を終えて、この春でフィジカル的に一番きつい時期はどうにか乗り越えた。もちろん、取材をしたら書かなければならないわけだが、〆切を先に延ばしてもらうようにあらかじめ交渉しておいたので、そこまでスケジュールが切迫しているわけでもない。もちろん、ゴールデンウイークも普通に家で仕事をするという前提での話だが(苦笑)。

今作っている新しい本の作業も、全体のスケジュールで言えば中間地点というところ。掲載する素材がほぼ出揃い、これから編集作業が本格化する。当面の目標は、6月20日に予定している印刷所へのデータ入稿までに、すべてのページの制作を間に合わせること。

気が抜けない日々が続くが、ここからが編集者の仕事だ。

旅が好きで、本が好きで

昨日は夕方に青山へ。BOOK246で開催された贈本市の終了間際の時間にすべりこみ、トークイベントなどを拝見。その後、閉店後の店内で催されたパーティーに出席させていただく。

店内は、出版社の関係者や写真家さんやイラストレーターさんや、本当にいろんな方々でごったがえしていたのだが、何というか‥‥とてもいい空間だった。みんな、旅が好きで、本が好きで、そういうものを作ったり売ったりするのが好きで。難しいことを四の五の言わなくても、それでいいじゃん、と思える。

旅好きと本好きに愛されたあの店は、明日を最後になくなってしまう。いつかまた、どこかで、ああいう場所が生まれてほしいと思う。

「亀時間 鎌倉の宿から生まれるつながりの環」

「亀時間 鎌倉の宿から生まれるつながりの環」鎌倉の材木座にある古民家ゲストハウス「亀時間」。僕はまだ泊まらせてもらったことはないのだが、今までに二度、足を運んでいる。それは、この場所で年に一度開催されている「旅人バザール」というフリマイベントの時。そのうち最初の訪問では、僕自身がそのフリマの出展者という立場だった。

その時の僕は、歴史のある建物に隅々まで丁寧に手を入れて心地いい空間を作り上げたオーナーのマサさんやスタッフの方々の誠実さと、材木座の街並や人々、海や山や空など、周囲を取り巻くすべてがこの「亀時間」を作り上げているのだな、という印象を持ったのを憶えている。この素晴らしい場所に根ざし、ゆったりとした時間の中でゲストハウスを営むという生き方が、うらやましくも思えた。

このゲストハウスについての本を作りたいという話は、ずっと前に旅音さんから聞いていたのだが、企画が通るまでの紆余曲折と、制作に入ってからの苦労話もいろいろ伝え聞いていたので、それが「亀時間 鎌倉の宿から生まれるつながりの環」として一つの形になったことは、うれしかったし、ほっとした。世の中には、読まれていくべき本というものがあると思うから。

マサさんが長旅の中でムビラという生き甲斐の一つを見つけ、それを続けるための仕事と生活を自ら作り出すという発想の転換から、鎌倉でゲストハウスを開業するまでの日々と思いが、この本では「亀時間」そのもののように誠実な筆致で綴られている。特に、材木座で放置されていた古民家と運命的にめぐり会い、仲間と悪戦苦闘しながらゲストハウスを作り上げていくまでの過程が、生き生きと語られていて面白い。「亀時間」という場所が、たくさんの仲間や地元の人々に支えられながら生まれてきたことが、あらためてよくわかった。

会社員時代の安定した収入と引き換えに得たものは、地域の人々と助け合える関係と、その中で好きな仕事ができる喜び、そして家族とゆっくり過ごせる時間。マサさんが「亀時間」を通じて選び取ったその生き方は、きっと多くの人にとって何かのヒントになるんじゃないかと思う。

ボタン1つ押し間違えて

朝、ギュイーン、ガガガガガ、という、ただごとではない騒音で目が覚める。何かと思ったら、うちのマンションの近くにある古い家が取り壊されていた。家一軒を潰すのだから、やかましくもなるはずだ。まあ仕方ない。

この週末の三連休は、まるっと家で執筆作業。コツコツと丁寧にテープ起こしをしては、それを基に原稿に仕上げていくことのくりかえし。傍目には本当に地味で単調な作業に見えると思う。でも‥‥面白いんだよなあ。特に今回の新しい本に収録する原稿は。早く読んでもらいたくて仕方がない。

そういえば、昨日レビューを書いた奥華子の「君と僕の道」の中に「未来地図」という曲があって、それ自体はとても前向きな曲なのだが、歌い出しの歌詞が、なんとこんな感じ。

徹夜でやっと書いた原稿 ボタン1つ押し間違えて 1文字残らず 綺麗に全部消してしまった

ライターとしては、かなりぎくっとする歌詞だ(笑)。好きな曲なんだけどね。

BOOK 246

午前中に都心で用事をすませた後、午後の取材まで時間が空いた。ふと思い立って、青山のBOOK 246へ。

少し前に、このBOOK 246がビルの解体工事に伴って閉店するという話を聞いた時は、正直かなりショックだったし、残念な気持だった。特にとりたてて予定もない天気のいい休みの日に、電車で青山まで出て、隣のカフェでランチを食べ、BOOK 246をのぞいてしばし旅気分に浸り、それから表参道や渋谷までぶらぶら散歩するというパターンが、結構多かったのだ。それに、僕が書いたラダックの本二冊をずっと辛抱強く置き続けてくださっていた、数少ない本屋さんの一つでもあったし。

とはいえ、僕はこのお店で、自分自身の身元を明かしたことは今までなかった。今になって名乗るのも相当気恥ずかしかったのだが、その一方で、このタイミングで一度ちゃんとお礼も言っておきたかった。で、おそるおそる名刺を差し出して名乗ってみると‥‥僕のことを知ってくれている方で、まずはそれにほっとした(笑)。その後、何だかんだでラダックやアラスカの話ですっかり盛り上がってしまい、一時間も店内でおしゃべりさせていただいてしまった。思っていた以上に共通の知り合いの方が多くて、そのつながりっぷりにもびっくりした。

十年間にわたって本と旅が好きな人たちに愛されてきた、小さな本屋さん。お店の形はなくなっても、その記憶はお客さんたちの心に残っていくと思う。そして、またどこか別の場所で、新しく生まれるものもきっとあると思う。