冬の高水三山


日々せわしないながらも、半ば無理やりに時間を作り、日帰り山歩きに行ってきた。今回の目的地は、奥多摩方面にある高水三山。軍畑駅を出発し、高水山、岩茸石山、惣岳山の三つの山を縦走し、御嶽駅に下りるルートを歩いた。西荻からは中央線と青梅線ですんなり往復できるので、アクセスは意外といい。


高水三山を歩くのは、実は二度目。最初に歩いたのは……2012年の6月(このブログで検索して調べた)。あの時は、曇っていて蒸し暑くて、登山道の左右に鬱蒼と草が茂っていた記憶がある。冬に来たのは初めてだったが、そこまで寒くもなかったし、トレイルには残雪やぬかるみもなく、歩きやすかった。


高水山の山頂の手前にある、常福院不動堂。軍畑駅からここまで、約1時間15分。主な登り行程はここまででほぼ終わり、あとは尾根と下りになる。


高水三山は、いずれの頂上も眺望はそこまで開けていなくて、登山道も大半は針葉樹林の中にある。絶景を求める人には向いていないかもしれないが、個人的には、こういうひなびた低山に何となく惹かれる。高くて眺めのいい場所に登るだけが、山歩きの楽しみというわけではないのだし。

今回のコース全体での所要時間は、ちょうど4時間。13年前に歩いた時も、ちょうど4時間だった(とブログで書いていた)。僕もそれなりの年齢のおっさんだが、13年前と同じタイムで普通に歩けているのには、正直、ちょっとほっとした。

時間差同時進行

なんだかんだで、せわしない日々が続いている。

今春に刊行される予定の新刊その1は、初校を戻し終え、来週からは外部の校正者さんを交えての再校のチェック作業が始まる。印刷所に入稿するまでに、印刷で使う写真のデータや色見本も準備しなければならない。発売に合わせてのイベントや展示、フェア、ノベルティなどの準備もある。

新刊その1の作業が小康状態の隙間時間は、今秋に刊行される予定の新刊その2の作業。原稿はほぼ仕上がっていて、全体を通してのリライト作業に移っているが、推敲にはもう少し時間をかけたい。こちらも台割の策定や写真の準備(データだけでなく紙焼きも印刷原稿に使う)など、いろいろやらねばならないことがある。でも、残された時間はそれほどない……。

その他にも、今夏のラダックツアーの準備や、企業案件や大学案件の書き仕事などが入ってきていて、いろんなものが時間差で同時進行している状態。スケジュールやTO DOをうまく管理しないと、うっかり何かを忘れてしまいそうな気がする。用心せねば……。

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ポール・オースター『4321』読了。毎晩、寝る前に少しずつ読み進めて、途中二度ほどフヅクエでも集中して読んだけれど、800ページ、88万字もあるこの大作、じっくり読んでいくと、やはり時間がかかった……。

ささやかな偶然の連鎖によって枝分かれしていく、アーチボルト・ファーガソンの四つの人生。どれもありえたかもしれないそれらの人生は、濃密な筆致で描き出される1960年代のアメリカ社会を舞台に、滔々と語られてゆく。この本の主人公は、四つのバージョンのファーガソンであると同時に、今も数多くの宿痾を抱えるアメリカという国の現実そのものでもあったのかなと思う。

熊美と熊五郎

今週は毎晩、やけに鮮明な夢を見続けている。普段は、夢を見てもその内容を憶えてることはほとんどないが、今週見た夢は、どれもかなりはっきりと思い出せる。

とりわけよく憶えてるのが、水曜の明け方に見た夢。

僕は、どこかの旅先の宿で、ダッフルバッグの荷造りをしている。あれこれいろいろあってなかなか終わらず、少し目を離していると、二頭のちっこい子熊が、僕の荷物をめっちゃめちゃに荒らしている。

「こらー! 熊美ー! 熊五郎ー!」と叫びながら子熊たちを止め、熊五郎の方を抱き抱えると、熊五郎は僕の黒革の財布に牙をがっしりめり込ませてくわえている。財布を口から離すと、熊五郎は、にぱっ、と笑った。……という夢。

これは、いったい……どういう夢なのか……なんで子熊……しかも、熊美と熊五郎……。

謎は謎のままで、終わりそうな気がする。

新しいオーディオ

ひさしぶりに、自宅のオーディオ機器を刷新した。特にスピーカーは、10年以上ぶりの買い替えになる。

新しく導入したのは、デノンのRCD-N12というネットワークCDレシーバーと、ダリのOBERON 1というブックシェルフスピーカー。CDの再生環境を維持するかどうかは、かなり悩んだ。最近は、ネットワーク機能のみを備えた小型で高性能なアンプが人気のようだし、自宅でCDを聴く頻度も少なくなってきているし。ただ、僕も相方もそれなりの量のCDのコレクションをまだ持っているので、今回はCD付きの機器にしておこう……と考えた次第。

実際に機器を入れ替えてみると、すこぶる快適。RCD-N12の動作は今のところ安定していて、iPhoneをAirPlayでつないでの音源やradikoの再生も、まったくストレスなく使えている。スピーカーのOBERON 1は、音の定位感や解像感が以前のスピーカーとは段違いで、小さめの音量でもクリアに粒立って聴こえる。このスピーカー、コスパ的にもかなり優秀だ。スピーカーはそう簡単に壊れるものでもないので、末永い付き合いになりそうな気がする。

僕たちの家にはテレビがなく、朝起きてまずつけるのは、ラジオ。オーディオ機器の良し悪しは、我が家のQOLに直結している。今回は、良い選択だったんじゃないかなと思う。

寝る前に本を読む

今年に入ってから、毎晩、寝る前に30分から1時間ほど、本を読む時間を作ることにした。

きっかけは、去年の暮れに相方から、ポール・オースターの『4321』をもらったこと。晩年のオースター渾身の大長編なので楽しみにしていたのだが、この本、異様にでかくて重い。A5判ハードカバー、800ページ、重さ約1.1キロ(キッチンスケールだと計りきれなくて、体重計で計った)。僕は普段、本は鞄に入れて持ち歩いて、電車の中や喫茶店で読むことが多いのだが、この鈍器本を持ち歩くのはさすがにしんどい。それで、持ち歩き用の本は別に用意して、『4321』を家で読み進める時間を日課として設けてみよう、と考えた次第。

実際に毎晩、決まった時間に本を読む習慣を作ってみると、思いのほか、いい感じ。デスクライトの下で分厚い本を開く時間が来るのが、待ち遠しくなる。今読んでいるのが、圧倒的な物語力を持つ『4321』だからというのもあるが、別の大作系の本でも愉しくなりそうだ。岩波文庫版のメルヴィルの『白鯨』とか、ブルース・チャトウィンの伝記とか、家にある未読の本を手に取る時間にしていこうかな、と思う。

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ハン・ガン『すべての、白いものたちの』読了。ポーランドの首都ワルシャワに滞在しはじめた「私」と、もしかしたら「私」の代わりに生きていたかもしれない「彼女」のまなざしで、「白いもの」にまつわる断章が、選び抜かれた一語々々で綴られていく。清冽で、穏やかで、哀しく、美しい本。昨年のノーベル文学賞の受賞以来、日本の書店にもハン・ガン作品のコーナーが作られていて、売れ行きも好調のようなのだが、この『すべての、白いものたちの』を読めば、誰もが納得すると思う。