チベット問題と日本のメディア

昨日の朝、自宅の郵便受けに、購読していないはずの毎日新聞が入っていた。勧誘のために投函されたものらしい。何気なく広げてみると、なんと一面に、ダライ・ラマ法王とロブサン・センゲ首相のツーショット写真が載っているではないか。一面だけでなく、四面にも全面記事が載っている。担当はニューデリー支局の杉尾直哉記者。1960年代から現在に至るまでのチベット解放運動と、センゲ首相を中心としたチベットのこれからについてのルポルタージュ。精力的な取材に基づくフェアな視点で書かれた、読み応えのある記事だった。

中国が最も恐れる男 チベットの若き指導者

この記事、Webへの掲載予定はないらしい。よりによってこの日の新聞がうちに投函されてたというのは、我ながら、ツイてる(笑)。

こういう力の入った記事に比べると、最近巷で物議を醸している「TRANSIT」のチベット特集号は、偏った先入観による取材で作られた、底の浅い雑誌だと思えてしまう。もちろん、すべての記事がダメというわけではない。だが、本土でチベット人の尼僧の少女にダライ・ラマ法王のアクセサリーをプレゼントしたことを編集長自らが記事に書き、その尼僧の写真まででかでかと載せてしまう思慮のなさには、さすがに呆れた。この写真を基に当局がその尼僧を逮捕・投獄する可能性は十分すぎるくらいあるのだ。なにせ、日本で大人気の旅雑誌なのだから。

「チベット」を本気でメディアで取り上げるには、相応の準備と覚悟がいる。上っ面のイメージだけでやっつけたこの雑誌で、チベットが再び取り上げられることは、たぶんもうないだろうな。この特集号に関わったチベット関係の識者の大半を怒らせてしまったみたいだから。

フリマの支度

今日の午後は、家でまったり。今月末の27日(土)に鎌倉で開催されるフリマ「旅人バザール」に出店者として参加することになったので、そこで出す品物の整理をしつつ、リストと値札をちまちまと作る。

フリマというか、こういう感じの物販は、ジュレーラダックの物販ブースの手伝いで何度か経験したことがあるが、書籍以外の品物を自分で用意して出すというのは初めて。しかも、もともと僕は旅先でおみやげをそんなに買わない方なので、品数も少ないし、手元にあるのは「ガラクタ?」と言いたくなるようなものばかり(苦笑)。弱った。

唯一、Tシャツは割と旅先で買う方なので、今まで買ってはみたもののほとんど着てないものを、何枚か出してみることにした。さあ、はたしてどうなることやら。

とりあえず、ほかの出店者のみなさんの商品はかなり期待できそうなので、おヒマな方はぜひ。

「おこぼれ」は嫌だ

フリーランスのライターとして活動を始めてから、僕の主戦場はしばらくの間、広告やデザインなどクリエイティブ系の雑誌だった。そこでの主な任務は、クリエイターへのインタビュー。今ふりかえってみても、結構な本数をがむしゃらに捌いていた。

当時も今もクリエイティブ系の雑誌でよく見られるのが、一種のスター・システム。大御所や売れっ子の若手など、著名なクリエイターを華々しく取り上げて、そのポートフォリオで誌面を盛り上げるというやり方。それはそれで、雑誌の一つの切り口としてありだったとは思うし、僕自身、普通ならとてもお会いできなかった錚々たる面々(思い返してみても、いやほんとに)にインタビューさせていただけたのは、恵まれていたなと思う。また、ほとんど無名の頃に取材したクリエイターが、その後みるみるうちに有名になっていくのを見守るのも、ライター冥利に尽きるものだった。

でも、しばらく経ってから思うようになった。これはこれでいい。だが、これ「だけ」じゃいかんだろ、と。

スターを華々しく紹介する記事を書くことは、それを求める読者がいる以上、必要なことなのかもしれない。だが、あまりにもそれに依存しすぎるのは、まるで、その人たちの輝きの「おこぼれ」をコバンザメみたく待ち構えてるようなものじゃないか‥‥。そんな風に感じるようになったのだ。

本づくり、雑誌づくりを生業に選んだなら、「おこぼれ」だけでなく、自分自身の目線と言葉でも勝負できるようになりたい。それは作り手のエゴなのかもしれないが、それくらいでなければ、この仕事を選んだ甲斐がない。だからその後は、自分で企画・執筆・編集する書籍を主戦場にした。それには、壮絶なやせ我慢を伴ったが‥‥(苦笑)。

僕は、自分にとって大切に思えることを、自分らしい形で伝えていきたい。せいぜい、六等星くらいの輝きでしかないのかもしれないけれど。

スライドトークイベント:冬のラダックと「氷の回廊」チャダル

東京・大崎にあるパタゴニア東京 ゲートシティ大崎店で、冬のラダック・ザンスカールをテーマにしたスライドトークイベントを開催することになりました。冬ならではのラダックの美しい風景や、ロサルやレー・ドスモチェをはじめとする冬の祭り、凍結したザンスカール川の上を旅するチャダル・トレックなどについて、現地で撮影した写真をふんだんに見せながらお話しします。

このトークイベント、入場は無料ですが、設営の関係で事前予約が必要です。事前に主催の風の旅行社(0120-987-553/info@kaze-travel.co.jp)までご連絡ください。会場のキャパが約80名と、僕にしては分不相応に大きいので(苦笑)、よろしくお願いします。

英語でスピーチ

この間のアラスカ旅行で、デナリ国立公園のキャンプ・デナリに滞在していた時のこと。

キャンプ・デナリに泊まる人のほとんどは、昼の間、ロッジのガイドとともに周辺のハイキングに出かける。目的地はその時の状況によってさまざまだが、年配の人や体力に自信がない人向けの自然観察コース、一般の人向けのモデラート・コース、もうちょっと体力に自信がある人向けのストレニアス・コースがある。母をはじめとする日本人ツアーの参加者はみんなモデラート・コースだったのだが、僕はスピティの高地で増殖したヘモグロビンを持て余していたので(笑)、少人数のストレニアス・コースに参加させてもらっていた。

ハイキングから戻ってきて、ポトラッチと呼ばれる食堂のキャピンで夕食を食べた後、ハイキングの各グループの代表者が、その日の報告をする。どんなコースを歩いたか、どんな野生動物を見たか、どんな出来事があったか‥‥。基本的にはその日のガイドが報告を担当するのだが、たまに、参加者の中の一人が自ら報告をする場合もある。

滞在三日目のハイキングを終えてロッジに戻ってきた時、ガイドのマーサがいきなり僕に言った。

「タカ、今日の報告は、あなたがやりなさい。英語と日本語、両方でね!」

‥‥え? えぇ?!

数十人はいる宿泊客(もちろんほとんど外国人)の前で、僕が、英語でスピーチ?! しかも、夕食まで一時間半しかない‥‥。ここ最近の仕事でも感じたことがないほど、顔から血の気が引いていくのがわかった。

これまでのハイキングの報告では、ロッジのガイドはみんな、外国人特有のウィットの利いたノリで笑いを取りつつ、いい感じで話を進めていた。もちろん、僕にはそんな真似はとてもできないけど、「いやー、日本人なんで英語ダメなんっすよ」みたいな感じでお茶を濁して逃げたりもしたくない。なんとかせねば‥‥えらいことになった‥‥。

夕食後、ハイキングの各グループの報告が始まり、いよいよ僕の番が回ってきた。この日歩いたコースの説明から始めて、風が強くて尾根の上ではとても寒かったとか、おひるを食べた後にちょっと昼寝したとか、地リスを何度か見かけたとか、マーサがデナリの地質学的な成り立ちを教えてくれたとか‥‥。で、最後にこう付け足した。

「僕の個人的なハイライトは、小川を渡る時に飛び越えようとして失敗して、川に落っこちたことです‥‥」

場内、大笑い。その後もみんな寄ってきて、「君、川に落ちたのか! どれくらいこっぴどく落ちたんだ?」と声をかけてくる始末。こういうことを面白がるのは、どこの国の人も変わらないようだ。

アラスカくんだりで、身体を張って笑いを取ったみたいな感じになってしまった(苦笑)。