抜け出すには

午前中、三鷹駅前の喫茶店で打ち合わせ。ありがたいご提案をいただいて、今年の夏のプランがようやく少しずつ固まってきた気配。他にも絡めなければいけない仕事があるので、細かい部分を詰めていく必要はあるのだが。

去年の秋にタイ取材を終えて帰国してから今年初めにかけて、大小いくつかの仕事のオファーをいただいたり、自分からも新しい企画を提案したりしていて、それなりにいろいろせわしない。それでも自分的には、何かもう一つ物足りないというか、こんなんじゃ抜け出せないんじゃないか、という気がしている。

「抜け出す」というのは、経済的なこととか自身に対する評価とかではなく、何というか‥‥自分で「これだ」と確信できるような、突き抜ける手応えを感じられる仕事ができていないのでは、ということ。目の前にぶらさがった任務に一生懸命取り組んで、自分なりに結果を出そうと努力してはいるけれど、そこからぐっと抜け出すまでには至っていないというか。

目の前の仕事はもちろん大切で、おろそかにするなんてもってのほかだ。でも、その先にあるかもしれないものを見据えて考えてみることも、同時にやらなきゃいけないな、と思う。じっと手を見る、だけで終わってしまわないように。

「ミルカ」

milkha
僕は映画を観ても、めったに泣いたりしない。でも、この「ミルカ」では、途中で三回、眼鏡を外して、滲んだ涙を拭わなければならなかった。どんな内容の映画なのか、あらすじは結構わかっていたつもりだったのに。

ミルカ・シンは、陸上の400メートル走の世界記録樹立をはじめ、数々の国際大会で栄光を勝ち取ってきた天才スプリンター。インドでは国民的英雄で、1960年のローマ・オリンピックでも金メダル獲得を期待されていた。ところがミルカは、400メートル決勝のゴール直前で背後をふりかえってしまい、メダルを逃してしまう。彼はなぜふりかえったのか。世界記録やオリンピックの金メダルよりも、彼にとってつらく困難な戦いとは何だったのか。

「地球の歩き方 タイ 2015〜2016」

arukikata_thai15昨年に引き続き、撮影とデータ取材の一部を担当させていただいた「地球の歩き方 タイ 2015〜2016」が、2月6日(金)頃から発売されます。今回の改訂版では、巻頭のカラーグラビアにあるタイ国内の世界遺産(アユタヤー、スコータイ、シー・サッチャナーライ、カムペーン・ペッ)の紹介記事で5ページ、タイ北部の町ラムパーンの紹介記事で4ページの写真と文章を提供しています。それ以外では、タイ中部と北部の章トビラの写真も。タイに行く予定がある人だけでなく、特に行く予定がない方も(笑)、書店で見かけたら一度手に取ってみていただけると嬉しいです。

リスクについて

十数年前、約半年をかけてアジアを横断する旅の途中、パキスタンのペシャワールに何日か滞在していたことがある。当時のパキスタンは今と比べるとまったく平穏な状態だったが、隣国のアフガニスタンは、タリバンの台頭に伴う内乱によって混迷を極めていた時期だった。

ペシャワールの安宿のドミトリーには、僕以外にも結構大勢の日本人旅行者が泊まっていた。彼らの間では、どうやったらペシャワールからアフガニスタンに入って戻ってこられるか、という話題でもちきりだった。カメラなどをいっさい持たない状態で入れば、途中でタリバンに捕まっても大丈夫らしい、とか何とか。彼らがアフガニスタンに行きたい理由は、単に怖いもの見たさの好奇心と、危ない国に行ってきたと周囲に自慢したい功名心でしかなかった。僕はそんな彼らの話を聞きながら、心底くだらない、と思っていた。

異国を旅したり、あるいは暮らしたりしていると、常にある程度のリスクがつきまとう。時にはどうにも避けようがない事態も起こりうる。ただ、常に用心深く行動して、冒さなくてもいいリスクを冒さないようにすれば、そうした確率をぐっと減らせることは間違いない。あの時、ペシャワールから物見遊山な気分でアフガンに行こうと話していた日本人たちは、まったく冒す必要のないリスクをわざわざ抱え込もうとしていた。

世界各地の紛争地帯で活動するジャーナリストたちは、その地で起こっていることの真実を伝えるという目的のため、リスクを冒してまでも危険な場所に赴く。ジャーナリストにも正直ピンからキリまでいろんな人がいるが、彼らは危険な状況下でも、彼らなりに最大限のリスクマネジメントをして、身の安全を図ろうとしている。それでも時には判断ミスをしたり、万全を期していたのにどうにもならない事態に巻き込まれたりすることはありうる。

心あるジャーナリストであれば、自分がリスクを冒して危険な地域に入った結果、危機的な状況に陥ってしまったら、それを非難されても仕方ないと思うだろうし、逆に聖人君主のように祀り上げられたら違和感を感じるだろう。常にそういう覚悟を持って取材に臨んでいる人は少なくないと思う。

ただ、さしたる覚悟も切実な目的も持たない人が、異国の地で、単なる油断と不注意によるリスクを冒し続けるのは、愚の骨頂だ。自分自身、あらためてそのことを肝に命じたいと思う。

インドノミゾシル

朝起きると、外は一面の白い雪。昼過ぎには止んできたが、東京でも、降る時には降るものだ。

幸い今日は外に出る用事もなく、食料の買い置きもあったので、完全に引きこもる。とはいえ、抱えてる仕事はいろいろあって、夜が更けるまで、電話やメールであちこちと連絡業務。一歩も家の外に出なかったのに、何だろう、この疲労感は(苦笑)。

気疲れの一番の原因は、現時点での懸案事項が、こちらがあーだこーだとじたばたしてもまったくどうにもならない、まさに神のみぞ知る状態にあるということ。いや、神というか、インド人というか‥‥(苦笑)。

あの国に振り回されるのは今に始まったことじゃないけど、ほんと、早くどうにかなってくれ、と祈るしかない。