「ブラフマーストラ」

最近のインド映画界では、「RRR」や「KGF」などヒンドゥー語圏以外で作られた作品が大ヒットして注目を集めているが、そんな中で去年、満を持して公開されて手堅くヒットを記録したボリウッド映画「ブラフマーストラ」。日本でも先月公開されたので、仕事の合間を縫って観に行ってきた。

古代から密かに継承されてきた、神々の武器「アストラ」。その中でも最強とされる「ブラフマーストラ」の争奪を巡って、善と悪の運命が交錯してゆく物語。宿命を背負って生まれた主人公シヴァに、ランビール・カプール。彼と運命的な出会いを果たすヒロインのイーシャは、今やランビールの妻でもあるアーリヤー・バット。ほかにも、アミターブ・バッチャンやシャー・ルク・カーンなどの豪華キャストが、それぞれ重要な役割を務めている。特に、序盤に登場するシャー・ルクの見せ場はすごくて、「えっ……主人公?」と思ってしまった(笑)。全編にわたってVFXが多用されているのだが、思いの外クオリティが高くて、違和感がない。

物語自体は、現代社会を舞台に神話的要素を組み込んだ、王道のヒロイック・ファンタジーという趣き。主人公が自身の宿命に目覚め、少しずつ能力をステップアップさせながら敵に立ち向かっていくという構図も、王道。逆に言えば、ある程度先が読めてしまう展開でもあるのだけれど、過去に遡るらしい続編(ディーピカー・パードゥコーンが本格的に登場するらしい。もう一人は……?)の展開は読めない部分もあるので、そのあたりは期待して待ちたい。

自然満喫


先週後半になってようやく仕事が少し落ち着いてきたので、金曜は早起きして、陣馬山から高尾山まで縦走してきた。半年ぶり。

陣馬山から高尾山までのルートでは、途中の各ポイントでの通過時間を以前にメモしておいたのだが、その後、何度歩いても、その時間からずれることはほとんどない。意識しているわけではないが、いつも同じ速度で歩いている。もっとも、同じ歩行速度でも、その時々の体調によって「今日はラクだなあ」という時もあれば「今日は体がなまってるな……」という時もある。今回は、だいたいいつも通りの平均的な感触だった。

しっとり湿った土を踏みしめながら、新緑の木立の下を歩くのは、やっぱり心地いい。身体の中に澱んでいたもの……疲れとか、ストレスとか、そういう澱みを、すっかり入れ替えてリフレッシュできたような気がする。

高尾山から稲荷山コースを下っていく途中、一匹のタヌキに遭遇した。最初から最後まで、ほんとに自然満喫の一日だった。

精神と時の部屋

今朝は起きた瞬間、ダメだ、と思った。頭の前半分が異様に重だるくて、ぼんやりしてしまう。身体もきつい。五月に入ってからの、いや、たぶん、それ以前から蓄積してた仕事やら何やらの疲労が、一気に噴出したのだろう。午前中は何も考えられなくて、頭痛薬を飲んで、ソファに横になっているしかなかった。

幸い、今日は急ぎの仕事もなかったので、終日オフにすることにした。昼になってだいぶ回復したので、午後は西荻のフヅクエへ。店内で最奥の位置にある、ほかの席からほぼ完全に死角になっている席にすべりこむ。お店の人からは、この席は「精神と時の部屋」と言われているそうだ。確かにここは、しばし時を忘れることができる。

鶏ハムのサンドイッチ、ショートブレッド、アイスコーヒーをいただきながら、トマス・エスペダルの『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』を読む。こういう時間が、もっと必要だ。ずっとベタ踏みのアクセルを、もう少しゆるめてみよう。

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アーシュラ・K・ル・グウィン『ゲド戦記』全六巻読了。二年くらい前に買っておいた岩波少年文庫のボックスセットを、一気に読んだ。若年層向けとはいえ、それぞれの物語を貫くテーマは、本当に深遠で……。稀代のストーリー・テラーがはためかせる想像の翼に乗って、アースシー世界での長い長い旅を、存分に愉しませてもらった。

海外では『The Books of Earthsea: The Complete Illustrated Edition』という、六冊とアースシー世界を舞台にした短編をすべて収録し、美しいイラストを添えた本が2018年に出ている。これ、二冊か三冊に分冊して、日本でも新訳で出してくれないかな……。岩波版の訳文も名作だとは思うが、さすがに古さを感じたので。その際は『ゲド戦記』とかではなく、原題に沿ったタイトルにしてほしい。

ぢっと手を見る

五月に入ってからも、ずっと忙しい。今年のゴールデンウイークは五連休とか、人によっては九連休とかだったらしいが、自分の場合は、五月に入って完全休養したのは一日だけかも。あとは、何だかんだで毎日原稿を書いたり、講座の宿題の添削をしたり、企画書を書いたり、あっちこっちにメールを書いたりしている。ちなみに、来週末の土日も、講師の仕事で両方つぶれる(苦笑)。まあこの日程も、OKを出したのは自分だから、仕方ない。

今日も昼に大学案件のリモート取材があって、その後も大学案件の原稿を二本くらい書いた。二本目を書き終えた時、「これでやっと、次の原稿に取りかかれる……!」と考えてしまっていた自分がいて、我ながらちょっとどうかと思った。こんな精神状態がずっと続くような状況は、あんまりほめられたもんじゃない。仕事がまったくないよりは、全然いいんだろうけど。

書き仕事も、撮影の仕事も、編集の仕事も、技術的には年々向上できている自信はそれなりにあるけれど、世間でのこの種の仕事の報酬の相場は、年々下がってしまっている。やりがいを感じながら懸命に働き続けても、結果として消耗し続けていくのであれば、その先行きは知れている。

そろそろ、いろいろ考えた方がいいのかもしれない。自分自身がすべきことは何なのか、きちんと見定めた上で。

土曜と日曜

先週の土曜と日曜は、ひさしぶりに二日続けての完全な休日。最近、よみうりカルチャーでの講師の仕事があったりして、なかなか休めなかったのだ。

土曜は昼に代々木上原のhako galleryに出かけて、鮫島亜希子さんと谷口百代さんのインドのおべんとうイベントへ。ダッバーワーラーの仕事ぶりを追った写真展もよかったし、現地のレシピで作ったというターリーもおいしかった。夜はコノコネコノコでこれまたおいしいごはんをいただいて、すっかりはらぱんの一日。

日曜は、食材の買い出しに近所に出かけた以外は、ずっと家にいた。ラジオを聴いたり、本を読んだり、コーヒーをいれてフルーツケーキを食べたり、夕飯にベンガル風の魚と野菜のジョルを作ったり。ただそれだけだったのだけれど、何だかとても豊かな時間を過ごせたような気もする。

人生には、余裕が、休みが、必要だ。しかしまあ、今日からはまた働かねばである。