「Tamasha」

tamasha今年の夏のラダック滞在、成田からデリーまで往復したエア・インディアの機内では、例によってインド映画三昧だった。機内でラインナップされていた中で一番観たかったのは、「Tamasha」。監督はイムティアーズ・アリー、主演は「若さは向こう見ず」に続いての共演となるランビールとディーピカ。東京で密かにロケが行われた作品という点でも気になっていた。

コルシカ島を旅していてパスポートとお金をなくして困っていたターラーは、芝居がかった嘘ばかり話す、ドンと名乗る男と出会う。二人は「コルシカにいる間は、お互いのことは嘘しか言わない。コルシカで起こった出来事はコルシカに置いていこう」と誓い合い、ターラーのパスポートとお金が届くまでの短い時間を二人で過ごす。別れの日が来た時、ターラーは本当の名前も知らない彼に惹かれていることに気づく。

数年後、二人はデリーで再会する。ドンことヴェードは、コルシカを旅していた時の彼とは別人のように実直なエンジニアとなっていた。やがて二人はつきあい始めるが、コルシカでの彼の記憶が忘れられないターラーは……。そして、本当の自分自身とは何なのか、子供の頃から引きずる苦悩と向き合うヴェードは……。

シンプルに若さはじけるボーイ・ミーツ・ガールのラブストーリーなのかと思いきや、それだけではなく、自分自身の弱さと向き合いながら道を探すヴェードの成長物語でもあり、冒頭から織り込まれている謎めいた劇中劇もきっちり伏線となって最後に収斂されているあたり、予想よりも凝った作りで、観ていて楽しかった。ただ、前半のコルシカ島での二人の物語がとても鮮やかで魅力的だった分、二人のすれ違いとヴェードの葛藤を描く後半はややパワーダウンした印象になったのは否めない。ターラーには後半ももっと物語に絡んでほしかった。

ラスト直前には東京で撮影された場面。重要なシーンに東京を選んでもらえたのは、ちょっとうれしい。そんな縁もあるのだから、この映画、日本で、日本語字幕付きで公開されるといいなあ……と希望的観測を書いてみたり。面白い作品だったので、ぜひに。

「カメラ目線」についての考察

たとえば、旅先で現地の人々のポートレートなどを撮影させてもらう時、「カメラ目線」で撮るべきかどうかというのは、意見の分かれるところだと思う。僕の知り合いのプロのフォトグラファーの方々にも、「カメラ目線」が苦手という人もいれば、逆に「カメラ目線」を作風の一つとして前面に出している人もいる。

結局のところ、「カメラ目線」で撮るかどうかは撮り手それぞれの好みの問題であって、「カメラ目線」だから写真作品として良いか悪いかが決まるという次元の話ではないのだと思う。「カメラ目線」であるからこそ意味を持つ場面もあれば、逆に目線がカメラに向けられていないからこそ意味を持つ場面もある。

僕の撮ったポートレート写真で世間に知られている作品には、「カメラ目線」の写真が比較的多い。ただ、それは意図的にそう撮ろうとして撮ったのではなく、自分のアプローチとして結果的かつ必然的にそうなったのだ。相手の人と近い距離で向き合い、言葉とか身振り手振りとかいろんなことで互いの気持をやりとりし、その結果として撮らせてもらった(撮らせてもらえない、あるいは僕はあえて撮らないこともある)写真なのだと思う。

その人がレンズとカメラを透かして撮り手自身を見つめていることに、意味があるのかどうか。撮り手がレンズとカメラを透かしてその人を見つめていることに、意味があるのかどうか。「カメラ目線」の場合、それを持ち合わせているのが、たぶん良い写真なのだと思う。

写真展「Summertime in Ladakh」


9月9日(金)から30日(金)まで、綱島にある旅カフェ、ポイントウェザーにて、ラダックの小さな写真展を開催させていただくことになりました。今年の夏にラダック各地で撮影してきたばかりの、未公開作品のみを展示します。ぜひお越しください。

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山本高樹 写真展「Summertime in Ladakh」

異国から来た仏師の末裔が暮らす村。9年ぶりに再会した花の民の女性。遊牧民の暮らす標高4500メートルの世界。ヒマラヤのさいはての地ラダックを見つめ続けてきた写真家、山本高樹が、2016年夏に撮影した未発表作品を展示する最新写真展。

会期:2016年9月9日(金)〜9月30日(金)
会場:POINT WEATHER
神奈川県横浜市港北区綱島西1-14-18 http://www.pointweather.net/
火曜〜日曜11:00〜21:00 月曜休
※写真展会場では「ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]」に未収録エピソード小冊子とポストカード2種をセットにした「ラダックの風息[新装版]限定特典セット」の販売も行います。

新幹線と在来線

昨日は終日、部屋で仕事。今年の夏にラダックで取材してきた素材で、Web連載に使えそうなものを整理して記事化し、アップロード。インドにいる間(デリーでの乗り継ぎ待ち時間とか)に原稿を書き進めておいてよかった。これで10月くらいまでは持ちこたえられるはず。

今日は昼から新宿へ。ニコンのサービスセンターでD800をセンサークリーニングに出し、来月の写真展の準備のためにあれやこれやと。ひさしぶりに桂花で太肉麺を食べ、夜はバルト9で「シン・ゴジラ」を観る。まさにニッポンの空想特撮怪獣映画といえる作品。緻密で膨大な量のディテールをひたすら積み上げることで、圧倒的なリアリティを生み出していた。ただ、登場人物たちに感情移入できるかというと僕的にはそうでもなく、淡々と見続けてしまった感じではある。

とりあえず、新幹線と在来線の扱いがよかった(笑)。

期せずして

昨日は昼から、都心を中心に写真展行脚。広尾で開催されていた吉田亮人さんの写真展と、青山で開催されていた角田明子さんの写真展。どちらも会期が終了する前に間に合ってよかった。その展示空間に行くことでしか感じられないものはあると思うから。

夕方、ひさしぶりにポイントウェザーに行くと、結構な大入満員でちょっと焦ったが、無事にカレーセットとビールにありつく。実はこの日、「近場の人で誰か来れます?」みたいなことをFacebookにちらっと書いていたのだが、思いの外たくさん人が来てくれて、営業終了後はお店のスタッフの方も加わっての大宴会みたいな感じになってしまった。

期せずして、びっくりするような展開になってしまったけど、何だか楽しかったな。ちなみにポイントウェザーでは、9月に小さな写真展をやります。お楽しみに。