にじみ出るもの

昼の間、部屋で原稿を書く。長めのインタビュー原稿をどうにか形にできたので、ほっとする。

夕方、都心へ。恵比寿でラーメンを食べ、ヴェルデでコーヒーを飲み、代官山蔦屋書店へ。竹沢うるまさんと旅行書コンシェルジュの荒木さんとのトークイベントを拝聴。途中で竹沢さんが急に僕の名を呼び、会場の全視線に急に振り向かれるという不測の事態に(苦笑)。僕の本を知っている方も何人か会場にいらっしゃって、終了後に声をかけていただいて、恐縮してしまった。

竹沢さんは、自分のメッセージや思いを込めようとして写真を撮ってはいないのだという。あくまで媒介者として、凪いだ水面のようにフラットな心で対峙し、何かに心が反応して波紋が浮かんだ瞬間にシャッターを切る。写真で捉えようとしているのは、自分自身の心の揺れ動きそのものなのだと。

メッセージや思い入れは、意図的に伝えようとしてもたいていうまく伝わらない。作り手や伝え手の個性というものも、意図的に出そうと思うとたいてい失敗する。そういうことを意識せず、自分自身の気持に素直に従って、前へ前へと進み続けていれば、個性や思いや伝えたいことというのは、しぜんとにじみ出てくるというか、見る人や読者がそれぞれに解釈して受け止めてくれる。そうやって委ねるべきものだとも思う。

レベルは大きく違うけれど、僕自身の文章や写真に対しても「ヤマタカさんらしいよね、ヤマタカ節だよね」とは周囲からよく言われる。僕自身は、いったいどのあたりがヤマタカらしいのか、未だにわかっていないのだけれど。笑われてるのかな(苦笑)。

くりかえしの日々

終日、部屋で仕事。今週はイマイチ調子がよくないというか、仕事に対してテンションの上がらない状態がずっと続いていたのだが、地味に粘り続けたのが功を奏して、急な忙しさで遅れ気味だったスケジュールをどうにか安全な状態にまで引き戻せた。

ここ数日間、判で押したように同じパターンの生活をくりかえしている。昼少し前に起き、適当におひるを作って食べ、コーヒーをいれ、メールとネットをチェックしながらそれを飲み、飲み終えたら仕事開始。夕方になってスーパーに食材を買いに行き、晩ごはんを適当に作り、シャワーを浴びて、仕事の続き。ノルマを達成したら、冷蔵庫からビールを取り出して、ぐびり。2時か3時頃に寝る。

これでいいんだろうか、とふと思う。自分は前に進めているのか。何かを積み重ねることができているのか。暮らしていくために必要な仕事の山に、おぼろげながら見え始めている、自分が目指そうとしている何かが埋もれてしまっているのではないか。それを目指すなら目指すで、言いようのない怖れのようなものを感じてしまうのだけれど。

「淀まず、急がず、後戻りせず」。こういう気分の時、色川武大さんの言葉は自分をハッとさせてくれる。

今日、何曜日だっけ?

終日、部屋で仕事。月曜に取材した案件の原稿を書き、その後は別の取材の音声起こし。

部屋で書き仕事をしている時、僕はしぜんと独り言が増えるのだが、今日の部屋での独り言は、我ながらどうかと思うような内容だった。ラジオをつける時、洗濯物を干す時、流しで洗い物をしてる時、スーパーに買い物に出かける時、気がつくと何かに手をつけるたびに「今日、何曜日だっけ?」と、まったく同じことをくりかえし呟いていたのだ。

今日は、水曜日。ポンコツにもほどがある。やれやれ。

つまらないこと

生きていると、つまらないな、と思うものや出来事に出くわすことは、しょっちゅうある。

どう考えてもやりがいの見つけられない仕事。ただの時間つぶしにしかならない娯楽。他人の顔色を伺いながら調子を合わせるだけの会話。

でも、よく考えてみたら、毎日々々、楽しい仕事ばかり手がけて成功し続けて、プライベートも何もかも、幸せいっぱいで充実しきっている人って、この世界にどのくらいいるのだろうか、とも思う。たぶん、いるのかもしれないけど、きっとそういう人は自分が満ち足りているとは気付いていないだろうし、それに、そういう状態は、それはそれで別の意味でつまらないんじゃないかなと思う。

日々の仕事や生活の中に、つまらないものや出来事が山ほどあるからこそ、人はそこから這い出して何かを目指そうとするのかもしれない。途中で何度もきついことに出くわして、つらい思いをするからこそ、その先に辿り着いた時の嬉しさを味わえるのかもしれない。

だからそういう意味では、つまらないものや出来事も、まったく無駄というわけではないのかな、と思う。

勘が鈍る

昼から八王子方面で、大学案件の取材。この時期の大学案件の取材は珍しいのだが、来週も再来週も、かなりまとまった数の取材予定が入っている。今日は3人の方にインタビュー。

ついこの間までのインドやアラスカ、タイでの日々からの急な揺り戻しで無理もないのかもしれないが、今日はインタビューの勘がなかなか戻らなかった。事前の下準備に従って質問をしたり、相手の答えに合わせて話を繋げていったりは滞りなくできているものの、いつもなら脳内でそれと同時進行で処理している「次の一手をどう打つか」という作戦立案みたいなことが、なかなかうまくできない。ひさしぶりで勘が鈍っていたのか、それとも集中力の問題か。

写真も文章もインタビューも、何事も間が空きすぎてしまうとよくないな、と思う。次はもっとうまくやれますように。