この間のアラスカ旅行で、デナリ国立公園のキャンプ・デナリに滞在していた時のこと。
キャンプ・デナリに泊まる人のほとんどは、昼の間、ロッジのガイドとともに周辺のハイキングに出かける。目的地はその時の状況によってさまざまだが、年配の人や体力に自信がない人向けの自然観察コース、一般の人向けのモデラート・コース、もうちょっと体力に自信がある人向けのストレニアス・コースがある。母をはじめとする日本人ツアーの参加者はみんなモデラート・コースだったのだが、僕はスピティの高地で増殖したヘモグロビンを持て余していたので(笑)、少人数のストレニアス・コースに参加させてもらっていた。
ハイキングから戻ってきて、ポトラッチと呼ばれる食堂のキャピンで夕食を食べた後、ハイキングの各グループの代表者が、その日の報告をする。どんなコースを歩いたか、どんな野生動物を見たか、どんな出来事があったか‥‥。基本的にはその日のガイドが報告を担当するのだが、たまに、参加者の中の一人が自ら報告をする場合もある。
滞在三日目のハイキングを終えてロッジに戻ってきた時、ガイドのマーサがいきなり僕に言った。
「タカ、今日の報告は、あなたがやりなさい。英語と日本語、両方でね!」
‥‥え? えぇ?!
数十人はいる宿泊客(もちろんほとんど外国人)の前で、僕が、英語でスピーチ?! しかも、夕食まで一時間半しかない‥‥。ここ最近の仕事でも感じたことがないほど、顔から血の気が引いていくのがわかった。
これまでのハイキングの報告では、ロッジのガイドはみんな、外国人特有のウィットの利いたノリで笑いを取りつつ、いい感じで話を進めていた。もちろん、僕にはそんな真似はとてもできないけど、「いやー、日本人なんで英語ダメなんっすよ」みたいな感じでお茶を濁して逃げたりもしたくない。なんとかせねば‥‥えらいことになった‥‥。
夕食後、ハイキングの各グループの報告が始まり、いよいよ僕の番が回ってきた。この日歩いたコースの説明から始めて、風が強くて尾根の上ではとても寒かったとか、おひるを食べた後にちょっと昼寝したとか、地リスを何度か見かけたとか、マーサがデナリの地質学的な成り立ちを教えてくれたとか‥‥。で、最後にこう付け足した。
「僕の個人的なハイライトは、小川を渡る時に飛び越えようとして失敗して、川に落っこちたことです‥‥」
場内、大笑い。その後もみんな寄ってきて、「君、川に落ちたのか! どれくらいこっぴどく落ちたんだ?」と声をかけてくる始末。こういうことを面白がるのは、どこの国の人も変わらないようだ。
アラスカくんだりで、身体を張って笑いを取ったみたいな感じになってしまった(苦笑)。