昼頃までは日も射して暑いくらいだったが、急に空が暗くなったと思ったら、風、雨、雷。激しい嵐になった。
こういう嵐に出くわすと、いつも、あの夜のことを思い出す。2010年の夏、トレッキングで分け入っていたラダックの標高五千メートルの山の中で、真夜中に激しい嵐に見舞われた時。テントが吹き飛ばされそうになるほどの風と、叩きつける雹混じりの雨と、空を覆う凄まじい稲妻。あの嵐の数時間の間に感じた恐怖は、たぶん一生忘れられないだろう。同じ時、ラダック各地で起こった土石流災害の死者・行方不明者は、600人以上に達した。
あの時の僕は、神様の気まぐれで、たまたま生き残っただけなのだ。いつ、どんな形になるかわからないけど、いつかは必ず、自分の番が来る。だからこそ、その順番が来るまで、自分にできること、やるべきことを、精一杯やっていかなければならない。嵐の記憶は、僕にそんなことを思い起こさせる。