今年の夏、「若さは向こう見ず」と同時上映されていた作品「愛するがゆえに」。最近のせわしない日々のせいで、こちらはスクリーンで観るチャンスはないかもと思っていたのだが、キネカ大森でまだ上映しているのを知り、タイに出発直前のすべりこみで、どうにか観ることができた。
RJことラーフルは、かつて栄光をほしいままにしたミュージシャン。今は人気も落ち目で、酒浸りの日々がその凋落に拍車をかけていた。野外コンサートで挑発されて乱闘騒ぎを起こした彼は、街をさまよううち、アロヒという女性に偶然出会う。酒場でラーフル自身の曲を歌う彼女の才能を見抜いた彼は、一流のシンガーに育ててみせるとアロヒに伝える。紆余曲折の末、二人の努力は実を結び、アロヒは瞬く間に注目の的となって、スターへの階段を駆け上がっていく。その一方でラーフルは、取り返しのつかないほどアルコール依存症に蝕まれていた‥‥。
実はこの作品、以前、飛行機の機内で完全な状態ではないけれど観たことがある。その時にも劇中歌のクオリティの高さが強く印象に残っていたのだが、それらの歌詞はすべて、各場面のラーフルやアロヒの心情にシンクロしていると後で聞き、いつか日本語字幕でそれを確認できたら、と思っていたのだ。そういう視点で観ると、本当に緻密に場面描写と歌詞が組み合わされているのがわかる。ミュージシャン同士の恋という設定だからこそ可能な手法だけど、うまいなあと思う。
ストーリーの方は、よくよく冷静に考えると、喉を傷めたならとりあえず病院で治療してみればいいのにとか、インドにはアルコール依存症患者を治療する施設はないのかなとか、ツッコミどころもあるにはある。それでも、二人が愛し合うがゆえに逃れようのない悲劇の道を辿る姿は、胸に迫るものがあった。インドの人たちは、こういう悲恋物語が大好きなのだ。たぶん、いやきっと。