南の国から

昨日、タイ取材を終えて、約四週間ぶりに、バンコクから東京に戻ってきた。

ひさしぶりに訪れたタイでは、やはりコロナ禍の爪痕があちこちで目についた。チェンマイなど観光業への依存度が強い街では、たくさんのホテルやゲストハウス、お洒落ショップ、レストランなどが閉業していた。シャッターを締め切っている店、もぬけの殻になった店、廃墟のように荒れ果てていた店。顔馴染みの人と再会して健在ぶりを確認できた時もあったが、会おうにも店自体がなくなっていて、あの人にはもう二度と会えないのかも、と寂しくなった時もあった。COVID-19は、本当にどんな国や人に対しても、容赦がない。大勢の人々の人生が、パンデミックによって決定的に変わってしまったのだな、とあらためて思う。

取材自体はあいかわらずハードで、五十過ぎのおっさんには結構な試練だったが、それでも日々あちこち歩き回りながら撮ったり調べたりする仕事は、やっぱり性に合っているのだと思う。家に籠りっぱなしでWebを頼りながらコタツ記事を量産するような仕事より、よっぽどいい。旨いタイ料理もいろいろ食べられたし(笑)。

とはいえ、帰国早々、すでにいろいろ忙しい。2023年は、このままあっという間に過ぎ去ってしまいそうだ。一つひとつ、やるしかないな。

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呉明益『自転車泥棒』読了。失踪した父親とともに行方不明になっていた幸福印の自転車を巡って、さまざまな人々、あるいは動物たちの数奇な物語が綴られていく。史実と幻想がないまぜになったそれらの物語は、無数に枝分かれして繁茂する巨木の梢にそれぞれぶらさがっている存在なのだと、読み手は最後に気付かされる。途方もない想像力と緻密なディテールを存分に堪能できる作品だった。

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