今年のタイ取材では、過去4年間とちょっとだけ違う試みをしていた。
毎日、日中の取材ノルマを終えると、僕はいったん宿に帰って汗でどろどろの身体をシャワーで洗い、少しデスクワークをしてから虫除けスプレーを吹き付け直し、だいたい夕方6時頃、晩ごはんを食べにまた外に出かけていた。その時、カメラにつけていたのは、50mm F1.8の単焦点レンズ。今回の取材中、個人的な作品の撮影は、夕方6時前後に50mm F1.8で、基本的に絞り開放で撮る、という縛りを自分に課していたのだ。
理由はいくつかある。個人的に、一日のうちでタイが一番タイらしい表情を見せると感じるのが、日没前後のこの時間帯。暮れていく空にうっすらと青みが残るくらいのタイミング。昼間の暑さも少し引いて、人々が街に出てきて、露店や食堂がにぎわい出す。僕自身、この時間帯のタイの街の雰囲気が好きだから、というのもある。
50mmの単焦点レンズを絞り開放にしていたのは、南国特有の湿気をたっぷり含んだ空気のうるみのようなものを捉えたかったから。パキッとシャープに撮るのではなく、ぽやんとした感じの写真を撮りたかった。構図にしてもあまりきちんと決め込まず、かなりラフな感じで、ぱしゃぱしゃとスナップ感覚で撮っていた。少々手ブレしてもいいくらいのつもりで。
実際にこういう縛りをつけて撮ってみて、新鮮というか、写真の面白さをあらためて教わったような気がしている。いつもの自分のやり方と違うアプローチにすることで、技術的、感覚的に気付けたことがたくさんあった。写真も、日々是勉強だなあ、と思う。