つながりっぱなしの旅

学生時代に生まれて初めて海外で一人旅をした頃、旅先で出会った人たちと交換するのは、住所と電話番号だった。旅の続きで訪れた街で買った絵ハガキを互いに送り合ったりして、帰国後、郵便受けにそんなハガキが届いていると、何だかすごく嬉しかったのを憶えている。

それから十年もしないうちに、世界中の観光地にはインターネットが使えるパソコンを置くサイバーカフェが林立するようになり、旅人たちが交換するのは、Hotmailのメールアドレスに変わった。それはやがてGmailになり、それからTwitterやFacebookやLINEのアカウントになった。

そして最近、観光地ではサイバーカフェがどんどん減り、代わりにWi-Fiフリーのホテルやレストラン、カフェが急増している。旅人たちはみなスマートフォンやタブレットを持ち歩き、ホテルや交通機関の予約、地図や現地情報の確認など、旅に必要なことの大半をそれらでまかなう。旅先で撮った写真はリアルタイムでブログやTwitterやFacebookにアップされ、日本にいる友達はそれにすぐ反応してコメントを返す。いつのまにか旅は、ずっと誰かとつながりっぱなしなのが、当たり前になった。

つながりっぱなしの旅。それはそれで、楽しい面もたくさんあると思う。でも、住所と電話番号を交換するようなオールド・スタイルの旅をしていた身としては、そんなに四六時中つながりっぱなしだと、ちょっとつまらなくない?とも感じる。知らない国の知らない街で、右も左もわからず途方に暮れて、その日の寝床と食事にありつくためにうろうろする。あの孤独と不安に苛まれるような感覚があるからこそ、一人旅は俄然面白くなるのではないだろうか。

旅先でスマホやタブレットを活用するのは、大いに結構。でも、せっかく旅に出るのなら、周囲と何のつながりのない世界に一人身を置くことの愉しみも、味わってみてほしいなと思う。

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