自分が見つからない旅

「自分探しの旅」というと、割とコアな旅好きの人の間では、面白おかしく揶揄されるか、半笑いでスルーされるかのどちらかなんじゃないかなと思う。いつ頃からそういう風潮になったのかはわからないけど、「旅に出ようぜ! 放浪しちゃおうぜ! そしたらきっと新しい自分が見つかるよ?」みたいな主張をする旅行記が、世に出回るようになったからかもしれない。

個人的には、若い時期に何か行き詰まることがあって、「旅に出て、新しい自分を見つけたい!」みたいな動機というか衝動で、ある程度長い期間の一人旅に出るのは、むしろとてもいいことなのではないかと思っている。「どうせ旅に出たって人生何も変わらないし」と、シラけて何もしようとしない人よりよっぽどいい。僕自身、二十二歳の時の最初の海外一人旅は、どん詰まりに行き詰まったあげくに選んだ道だったし。

ただ、そういう「自分探しの旅」で「自分」が見つかるとはかぎらない。というか、まず見つからないと思う。「見つかった!」と満足してる人には「よかったですねえ」と言うしかないが、たぶんそれは「見つかった」と思い込んでるだけ。僕の時は、自分が見つかるどころか、世界というものの大きさ、美しさ、優しさ、怖さ、複雑さ、醜さ‥‥そして不条理さと理不尽さを、これでもかというほど見せつけられて、自分がいかに何も知らなかったかということを思い知らされただけだった。僕の最初の旅は、「自分が見つからない旅」だったと言っていいかもしれない。

でも、そんな風に世界に打ちのめされてしまう旅だったとしても、無駄な経験は一つもないと思う。いつかどこかで、何かにつながるヒントが必ずある。僕の場合もあくまで結果論だけど、今の仕事に携わるようになったのは、あの「自分が見つからなかった」最初の旅の経験があったからこそだったから。

まだ旅を知らない人には、「自分探しの旅」でも何でもいいから、外の世界に飛び出して、ボッコボコに打ちのめされてみることをおすすめする。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *