痛ましい映画だった。悲しくて、もどかしくて、どうにもやりきれない。最後まで、救いの欠片すら見当たらない。
「息もできない」の主人公サンフンは、借金の取り立てを生業とするチンピラ。母と妹を死なせた父に対する憎悪に苛まれたまま、他人を暴力で傷つけることでしか生きていけない男。そんな彼がふとしたことで出会った勝気な女子高生ヨニは、心を病んだ父と荒れ狂う弟との間で、絶望に蝕まれていた。互いの心の傷の理由を知らないまま、二人は次第に惹かれあい、夜の漢江のほとりで涙を流す。だが苛酷な運命は、容赦なく彼らを押し流していく——。
一番近しい、大切な存在であるはずの家族ですら、傷つけずにはいられない人々。相手を殴りつけるサンフンの拳が血に染まり、ガツッ、グシャッと生々しい音が響くたび、観る者は思い知らされる。彼は、自分自身をも無惨に傷つけているのだと。
この映画で、製作、監督、脚本、編集、主演の5役をこなしたヤン・イクチュンは、これが初の長篇監督作品。彼自身、家族との間に問題を抱えたまま生きてきて、そのもどかしい思いを、作品として吐き出してしまいたかったのだという。自分の家を売り払ってまで製作費を捻出し、文字通りすべてを注ぎ込んで作り上げたこの「息もできない」は、彼にとって「作らずにはいられなかった映画」なのだろう。作り手として、「これを作らなければ、一歩も前に進めない」という抜き差しならない気持は、少しわかる気がする。僕自身、そういう思いにかられて本を書いたことがあったから。
ストーリーが比較的単純で伏線の先が読めてしまうとか、韓国映画特有の冗長な描写があるとか、いろいろ言いたい人はいると思う。でも僕は、この作品の評価をそんな上っ面なところでしてしまいたくない。「作らずにはいられない」という思いで、ヤン・イクチュンが自らの魂を削って作り上げたからこそ、この映画は観る者の心を動かすのだから。