「アラスカの無人島で過ごした四日間」

以前、「バター茶の味について思い巡らすこと」というエッセイを執筆した金子書房のnoteに、新しいエッセイを寄稿しました。「アラスカの無人島で過ごした四日間」という文章です。同社noteで組まれている「孤独の理解」という特集のテーマに沿う形で執筆しました。

よかったら、読んでみていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

「カクテル 友情のトライアングル」

今年も始まった、インディアンムービーウィーク2022。僕が最初に観に行ったのは、「カクテル 友情のトライアングル」。監督はホーミー・アダジャーニア。主演はサイフ・アリー・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、ダイアナ・ペンティ。10年前に公開された作品だ。

執拗にお見合い結婚を勧める母親から逃れて、ロンドンに引っ越した、システムエンジニアのガウタム。毎夜のパーティー三昧の生活を送るフォトグラファーのヴェロニカ。夫と暮らすためにロンドンに来たら偽装結婚だと告げられ追い出されたミーラ。ふとしたきっかけから同じ部屋で暮らすようになった三人。完璧なバランスに思えた彼らの友情の日々は、やがて、少しずつ変化していき……。

欧州ロケ主体で撮影されたスタイリッシュなラブストーリーは、昔も今もボリウッド映画にたくさんあって、この作品もその系譜に連なるものだ。プリータムによる音楽は華やかだし、序盤のハイテンポでコミカルな展開は観客の期待を裏切らない。ただ、後半のシリアスな展開との落差が結構激しいのと、三人それぞれの内面の変遷を表現する描写がやや足りなくて、唐突に感じられるところもあった。

三人の中では、ディーピカーの演技が見事にハマっていて、圧倒的な存在感を放っていた。「オーム・シャンティ・オーム」でデビューした後、しばらくは演技面で辛口の批評を受けていたそうだが、この「カクテル」で一気にブレークスルーを果たしたという評価も、納得の出来である。企画当初は、ディーピカーがヴェロニカとミーラを一人二役で担当するアイデアもあったそうだ。それはそれで、見てみたかった気もする。

何だかんだで安心して楽しめる、今時のボリウッド作品。よきかな、よきかな。

「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」

7月29日に閉館することが決まった、東京・神保町の岩波ホール。54年間に及ぶというその歴史に幕を下ろす最後の作品に選ばれたのは、ヴェルナー・ヘルツォーク監督のドキュメンタリー「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」。これは見届けねば、と思い、昨日観に行ってきた。

生前からの友人の一人だった監督の語りによって、チャトウィンの人となり、旅の軌跡と思索の遍歴が、南米やオーストラリアで撮影された映像とともに、淡々と、しかしリリカルに紡がれていく。『パタゴニア』や『ソングライン』を読んでいない人には、理解が追いつかない部分がもしかしたらあるかもしれない。ところどころでチャトウィン自身による自著の朗読の音声が挿入されていたのが、しみじみと良かった。

生来の人たらしで、おしゃべりで、作り話が大好きで、誰よりも優れた審美眼と飽くことを知らない好奇心を持っていて、死ぬ間際までずっと、旅に焦がれていた……。

彼には遠く及ばないけれど、僕も、心の赴くままに旅をして、文章を書き続けて、生涯を終えられたら、と思う。

一冊、一冊

午後、西荻の喫茶店それいゆで、初対面の編集者の方との打ち合わせに臨む。

その出版社との仕事は今回が初めてで、作ることになりそうな本のジャンルも、今までに経験したことのない分野だ。2時間近く、あれこれ打ち合わせをしているうちに、自分の内側のテンションが、じりじり上がってくるのを感じる。未知の領域への挑戦に、少しワクワクしていたのかもしれない。

相手の編集者の方も、びっくりするほど熱心で、著者の意志を尊重するのと同じくらい、自分たちの積み上げてきた媒体の価値に自負を持っているのを感じた。今度は、良いチームワークを実現できそうな気がする。それも、少しワクワクしていた理由だったのかもしれない。

この企画が世に出るのは、どんなに早くても再来年以降になるのだが、文字通り、1ページ1ページにじっくりこだわって取り組めそうなので、楽しみになってきた。来年の後半くらいのリリースを目標にしている別の出版社との本の企画もあるし、いろいろがんばらねば。

良い本を作ろう。一冊、一冊、自分の力が続くかぎり。

チームワークについて

次に出す新刊の制作も、いよいよ佳境。来週明けに再校、六月中旬に色校、七月頭に見本誌をチェックし終えたら、無事に完成ということになる。最後の最後まで、まったく気の抜けない作業が続く。

一般的な本の場合、著者は原稿を書き終えたら、その後の作業は編集者にまるっと託して、自身は著者校正や、折々のちょっとした確認、デザイン案などで意見を求められた時に答える程度の状態に落ち着くのが普通だと思う。ただ、去年出した本と今回の本の場合、著者である僕は、原稿を書き終えてからも関わらざるをえない作業が、やたらと多い。結果的に、編集実務のほぼ九割くらいを請け負う状態になってしまっている(ちなみにその分もらっているわけではない)。

台割の策定。写真のセレクト。帯文のコピーライティング。各人からの校正のとりまとめ。デザインの修正提案。特典グッズの提案と準備。進行スケジュールの提案と不備の指摘。何もそこまでしなくても、というところまで関わってしまっている。自分の本だから何一つ適当に済ませたくないし、任すに任せられない厄介な事情もあるのだが、正直、めっちゃ疲れる(苦笑)。

これまで、いろいろな出版社と本づくりの仕事をしてきた中で、各々の担当分野で誠実に協力してくれる方々と非常に良いチームワークを実現できたこともあれば、残念ながらあまり良いチームワークにならなかったこともある。本づくりという仕事に対する姿勢や思い入れの違いとか、理由はいくつかある。僕はただ、読者の方々に喜んでもらえるような本を、一冊々々、誠実に届けていくために、できる努力を全力で尽くしていきたいだけなのだが、世の中には、それが優先事項にならない人もたまにいる。その場合は、もう、折り合えない。

いつもの本づくりでは、書いている時も編集している時も楽しくて、いつまでも校了しなければいいのに、とまで感じる時もある。でも、今作っている本は、できるだけ速やかに、事故なく無事に完成させてしまいたい、と思う。良い本にしたいとは思っているし、自分なりにやり遂げる自信もあるが、正直、あまり楽しくはないし、とにかく疲れる(苦笑)。チームワークの大切さを、痛感している。

はあ。やれやれである。

———

李娟『冬牧場 カザフ族遊牧民と旅をして』読了。中国・アルタイの辺境で遊牧生活を営むカザフ族の一家とともに、真冬の放牧地で過ごした数カ月間の記録。軽やかな、でも深みのある筆致で、遊牧生活の素朴さと厳しさ、温もりと孤独が、丹念に描かれている。チベットやモンゴルと同じく、アルタイのカザフ族の遊牧生活も、中国政府が推し進める遊牧民の定住化政策によって、刻々と失われつつある。すっかり消え失せてしまうかもしれない冬牧場での素朴な生活を想う李娟さんの気持は、僕にも痛いほどわかる気がする。