読んだ本、観た映画

最近読んだ本や、観た映画の感想を、とりあえず短めにまとめて記録。

マーセル・セロー『極北』
チェルノブイリ近郊で立入禁止区域に残って一人で暮らす女性に著者が出会ったことが、この本の着想のきっかけだったそうだ。今よりも少し未来の、人類の黄昏時の物語。その黄昏時は、僕たちが暮らしている現実の世界にも、着実に忍び寄ってきているように感じる。何百年も先のことではなく、たぶん、もっと近くに。

『ジャッリカットゥ 牛の怒り』
ケーララ州の密林にある小さな村で、食用にするはずの水牛が脱走して大暴れ。水牛を捕まえようと追いかけ回す男たちは、やがて得体の知れない狂気に蝕まれていく。最初は「これ、怪獣映画やん」と思いながら観てたのだが、何のことはない、人間どもの方がよっぽど怪獣じみていた。面白いかと言われると、うーん、どうだろ。観る人を選ぶのは間違いない。

『竜とそばかすの姫』
前作は正直いまいち刺さらなかったのだが、今作は、細田監督の十八番であるサイバーワールドを舞台装置にした物語で、奔放で鮮やかなビジュアルと、主演の中村佳穂さんの歌声の吸引力に、文字通りシビれた。観終わってしばらくして、少し物足りないかも、と思い返したのは、仮想世界「U」の機能やディテールの描写だろうか。ユーザーが匿名のアバターとなって「もう一つの人生」を生きられる場所とされていたが、具体的にそこでどんなことが実現できるのか、もっとアイデアを見せてもよかった気がする。

ワクチンはまだ遠し

僕の住んでいる杉並区では、僕の年代にあたる40歳から59歳の人を対象にした新型コロナワクチンの接種予約が始まる予定だった。杉並区ではこの年代が一番後回しにされている。区内では40歳以下の年代の感染者がとても多かったからだそうだ。

で、ワクチン接種の予約が取れたかというと、ダメだった。僕だけでなく、ほとんどの人が。国からのワクチン供給量が大幅に減っていて、接種予約を受け付けられるだけの量が確保できなかったからだという。他の自治体でも、あちこちで同じような状況だと聞く。

僕も内心、8月中くらいにはワクチンを2回打ち終えて、9月か10月には実家方面に帰省して回ろうかと思っていたのだが、この調子だと、年末年始の帰省も怪しくなってきた。仮に海外取材の依頼が来たとしても、ワクチンパスポートが取れないから、行くに行けない(まあ、タイもインドも年内は依頼は来ないだろうけど)。

いやはや。なんて間抜けなんだろう、今の日本の政府は。今日の東京の新規感染者数は、1308人。この状況で、来週からオリンピックとかやるつもりらしい。狂ってる。

本の価値を決めるもの

去年雷鳥社から刊行した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』が、日本旅行作家協会が主催する紀行文学賞、第6回「斎藤茂太賞」を受賞した。

自分の本がこの賞の最終候補に残っているという情報を知ったのは、今年の5月。それから、コロナ禍などの事情で最終選考の実施が2カ月ほど遅れ、ようやく先週決定したのだそうだ。

雷鳥社の担当編集者さんから電話を受けて、最初に感じたのは、とにかく「ほっとした」という安堵の思いだった。これで、この本を作る際に力を貸してくれた大勢の方々に、少しだけ恩返しができた。……というより、土壇場で選にもれて関係者の方々をがっかりさせずに済んだ、という気持の方が強かったかもしれない。実際、去年一年間で、僕の本より売れた紀行本は山ほどあったし、メディアで数多く取り上げられた本も他に何冊もあったから。

世の中にある数多の文学賞は、読者が本を選ぶ時の参考にできる、ものさしの一つにはなると思う。ただ、そうした文学賞は、その本自体の絶対的な価値を定義したり保証したりするものではないとも思う。売上部数やメディア露出も、読者にとってのものさしにはなると思うが、それもまた、本自体の絶対的な価値を決定づけるものではない。

本は、それが内容的にある一定の水準を満たしているものなら、良し悪しや優劣を第三者が決めることにはあまり意味がない、と僕は思う。読む人それぞれが、好きか、そうでもないか、と判断すれば、それで十分だ。ある人にとってはありきたりの内容の本でも、別の誰かにとってはかけがえのない大切な本かもしれないのだから。

ただ、内容的にある一定の水準を満たせていない本、具体的には、誰かを不当に貶めたり傷つけたりする内容が含まれる本や、事実を誤認させる情報が載っている本、他の本のアイデアや内容を剽窃している本は、そもそも俎上に載せてはならないとも思う。残念ながら、書店にはそういう本も少なからず並んでいるけれど。

僕にとって、自分が書いた本に価値があるかどうかを実感させてくれているのは、読者の方々一人ひとりからお寄せいただいた、メールや手紙、SNSなどに書かれた、読後の感想だ。『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』に対しても、本当にたくさんの感想をいただいた。冬のザンスカールへの想い、自然と人とのあるべき関係、人生の持つ意味について考えたことなど……。その感想の一つひとつが、僕にとっては、本当の意味でのトロフィーだと思っている。そうした感想に目を通すと、また全身全霊を込めて本を作ろう、と気持を奮い立たせることができる。

本の価値は、読者の方々、一人ひとりに、委ねるべきものなのだと思う。

禅問答

先週末、自分の著作のフェアを開催していただいている書店での配信トークイベントに出演するため、大船に行った。トークの開始前に、軽く腹ごしらえをしておこうと思って、大船駅前にあるウェンディーズに入った。カウンターで、若い女性アルバイトの店員さんに、ハンバーガーとチリビーンズとドリンクのセットを注文。

「ドリンクはどれになさいますか?」
「あ、えーと、コーラで」
「今、コーラをご注文のお客様に、コーラを差し上げているんですが、いかがですか?」

……ん? んんん?

一瞬、この女性アルバイトさんに、禅問答を仕掛けられてるのかな、と混乱したのだが、よくよく聞くと、ドリンクでコーラを選んだ人に、おまけとして試供品の缶コーラをプレゼントしている、という意味だった。

あー、びっくりした。

電車でサラダチキン

昨日、都心に出かけようとして、電車に乗った。昼過ぎだったので、車内はまあまあ空いている。一番隅の席に腰を下ろした。

次の駅で、わらわらと人が乗ってきて、座席はほぼ埋まった。僕の隣には、ジャージ姿のやや大柄な若い男が座った。コンビニで買ったものが入ってるっぽいビニール袋を持っている。

電車が動き出すと、その男はビニール袋に手を突っ込み、何かを取り出した。サラダチキンだ。で、それを、いきなり開けにかかった。

まじかよ。そんなもん食べるのか。この、コロナ禍のご時世に。結構混んでるこの電車の中で。で、よりにもよって、俺の隣で。

僕は秒速で立ち上がって、車両の反対側に逃げ出した。途中でふりかえると、べりべりとビニールをむいて、サラダチキンを頬張ろうとしてる男の姿が目に入った。

誰か教えてあげてくれ、あの男に、TPOってやつを。